通訳にとって準備にかける時間がどれ程貴重なものかは皆さんご存知の通りです。しかし、実際には残念ながら事前情報の少ない案件というのは少なくありません。皆さんは、事前の資料請求をどのようにされているのでしょうか?
レセプション通訳で…
以前の記事にも書いた広島開催の国際アニメーションフェスティバルの仕事で、舞台通訳以外にレセプション通訳を久しぶりに行いました。今回のアニメフェスのサイドイベントとしてノルウェー大使館主催で開催されたレセプションでした。
さて…、残念ながら事前に知らされていた情報はサイドイベントであるということと、集合時間と連絡先となるノルウェー大使館側の担当者のお名前のみでした。でも、おそらくこれが普通です(笑)
こういうイベント時には、イベント関係者は目の前の事で手一杯で、通訳のような(彼らにとって)見えない存在はどうしても後回しになってしまいがちなのです。前日に迫った時点に「分っていることを教えて欲しい…」と連絡ても、情報は手に入らなくても仕方がないですし、実際「仕方がない」と覚悟を決めておいたほうが無難です。
ちなみにこれはエージェント案件でしたが、エージェントさんを急かすことはこの時にはしませんでした。その代り、レセプション会場に1時間以上前に入りました。既に準備が始まっています。そこにいた担当者をひっ捕まえて(…いえいえ、丁寧にアプローチしましたよ、もちろん!でも気持ちはそんな感じです。笑)以下の点を確認しました。
- すべてのスピーカーの肩書、フルネームとその他固有名詞(英語/日本語)
- イベント進行プログラム
- 通訳の立ち位置と、通訳介入のタイミング
結局、これで全て上手く行き「次もまたお願いします!」と言われて気持ちよく終わりました。レセプション通訳の内容は各方面への謝辞が多く、上記程度を確認しておけば、特に難しい事は有りません。あとは主催者の意向に沿った形でどう動けるか?だけです。
ITベンダーによるビジネスパートナー向け国際会議で…
ITベンダーのビジネスパートナー向け国際会議を夏前後に担当しました。どれも、仲間の通訳さんに手伝ってもらった案件で、私自身がコーディネーター役もつとめました。ただし、昨年からの流れで資料が出ないことはよく分っていたので、ご協力頂く方にはあらかじめ「おそらく資料は直前にしか出ません…!」と最初からごめんなさい!を決め込んではいました。
いずれの案件でも、前夜に資料が送られてくるものもあれば、結局現場に行ってはじめてハードコピーを目にするセッションもありました。
それでも、ご協力頂いた通訳さんと何とか乗り越える事が出来たと思います。正直なところ、パフォーマンスは十分だったか?もっと上手く出来たのではないか?と問われればもちろん資料があればレベルが上がったことは間違い有りません。しかし、「無い」ものは無いのです。
エージェントの立場で見た場合
自分の仕事を完遂するために通訳として資料を事前に要求することは当然のことです。しかし
「本当にこのタイミングで資料請求をすることが有効か?」
ということは、どんな仕事であっても常に考えなければならないでしょう。
ゴリ押しして「何が何でも資料くれ!」という姿勢を見せつけられた主催者やエージェントはウンザリして、通訳者との関係がぎくしゃくしてしまう…そういう立場に自分を追い込まないことも一つの知恵です。
また、ITベンダー会議の案件で仲間の通訳さんに協力をお願いした時、私のお声がけの基準は通訳としてレベルのしっかりした方というのは勿論のこと、それに加えて”「資料無しでもベストエフォートでやるしかない!」と頑張ってくれそうな方”というものでした。
このようにエージェントの立場に立って見えてくることもあります。無いと言っているのにしつこく資料請求をしてくる通訳者。「この通訳は自信が無いのかな…?」と思われてしまうかも知れません。
また、打診の段階での資料の有無をたずねるのは構いませんが「資料が”出るならやります”」はタブーでしょう。そう言われたエージェントは「資料がこれから先でるかどうか分らない」現在において、具体的にその案件をあなたに振ってくれることはまずありません。万が一案件後に顧客からクレームが出たからと言って「資料が無かったから出来ませんでした。」とエージェントに文句を言うのはもってのほかです。
資料請求の仕方で見える通訳者のスタンス
通訳を日常的に使っていないお客さまでも、真剣に意思疎通を考えているお客さまであれば、こちらがお願いすれば必ず資料を出してくれます。どんな資料が役に立つか分らないようであれば、こちらから「こんなものでも役に立ちます。」と具体的に欲しい資料の内容を指定するのも手でしょう。
エージェント経由であれば、普段から信頼できるエージェントさんと仕事をすることです。安心して資料調達を任せられる、そんなエージェントさんと組めれば最強です。
通訳スキルレベルはそんなに飛躍的に伸びるものでは有りません。そう考えれば事前資料、情報の入手が通訳にとって生命線とも言えます。しかし、プロ通訳の姿勢として「この仕事をやる」と決めた以上は「資料の有無」を自分のパフォーマンスの”言い訳”にするべきではない…と私は思っています。
ここで”言い訳”と言ったのは、資料の有無がパフォーマンスレベルを左右するのは仕方ないことだからです。客観的に評価して「限られた情報量の中でできる全てを出せたかどうか?」…そこが大切だということです。
先輩通訳に「現場に着いた時点で、大方の勝負はついている…。」と言われたことがあります。通訳としての心構えも含め、深い言葉だと思っています。
レセプション通訳で…
以前の記事にも書いた広島開催の国際アニメーションフェスティバルの仕事で、舞台通訳以外にレセプション通訳を久しぶりに行いました。今回のアニメフェスのサイドイベントとしてノルウェー大使館主催で開催されたレセプションでした。
さて…、残念ながら事前に知らされていた情報はサイドイベントであるということと、集合時間と連絡先となるノルウェー大使館側の担当者のお名前のみでした。でも、おそらくこれが普通です(笑)
こういうイベント時には、イベント関係者は目の前の事で手一杯で、通訳のような(彼らにとって)見えない存在はどうしても後回しになってしまいがちなのです。前日に迫った時点に「分っていることを教えて欲しい…」と連絡ても、情報は手に入らなくても仕方がないですし、実際「仕方がない」と覚悟を決めておいたほうが無難です。
ちなみにこれはエージェント案件でしたが、エージェントさんを急かすことはこの時にはしませんでした。その代り、レセプション会場に1時間以上前に入りました。既に準備が始まっています。そこにいた担当者をひっ捕まえて(…いえいえ、丁寧にアプローチしましたよ、もちろん!でも気持ちはそんな感じです。笑)以下の点を確認しました。
- すべてのスピーカーの肩書、フルネームとその他固有名詞(英語/日本語)
- イベント進行プログラム
- 通訳の立ち位置と、通訳介入のタイミング
結局、これで全て上手く行き「次もまたお願いします!」と言われて気持ちよく終わりました。レセプション通訳の内容は各方面への謝辞が多く、上記程度を確認しておけば、特に難しい事は有りません。あとは主催者の意向に沿った形でどう動けるか?だけです。
ITベンダーによるビジネスパートナー向け国際会議で…
ITベンダーのビジネスパートナー向け国際会議を夏前後に担当しました。どれも、仲間の通訳さんに手伝ってもらった案件で、私自身がコーディネーター役もつとめました。ただし、昨年からの流れで資料が出ないことはよく分っていたので、ご協力頂く方にはあらかじめ「おそらく資料は直前にしか出ません…!」と最初からごめんなさい!を決め込んではいました。
いずれの案件でも、前夜に資料が送られてくるものもあれば、結局現場に行ってはじめてハードコピーを目にするセッションもありました。
それでも、ご協力頂いた通訳さんと何とか乗り越える事が出来たと思います。正直なところ、パフォーマンスは十分だったか?もっと上手く出来たのではないか?と問われればもちろん資料があればレベルが上がったことは間違い有りません。しかし、「無い」ものは無いのです。
エージェントの立場で見た場合
自分の仕事を完遂するために通訳として資料を事前に要求することは当然のことです。しかし
「本当にこのタイミングで資料請求をすることが有効か?」
ということは、どんな仕事であっても常に考えなければならないでしょう。
ゴリ押しして「何が何でも資料くれ!」という姿勢を見せつけられた主催者やエージェントはウンザリして、通訳者との関係がぎくしゃくしてしまう…そういう立場に自分を追い込まないことも一つの知恵です。
また、ITベンダー会議の案件で仲間の通訳さんに協力をお願いした時、私のお声がけの基準は通訳としてレベルのしっかりした方というのは勿論のこと、それに加えて”「資料無しでもベストエフォートでやるしかない!」と頑張ってくれそうな方”というものでした。
このようにエージェントの立場に立って見えてくることもあります。無いと言っているのにしつこく資料請求をしてくる通訳者。「この通訳は自信が無いのかな…?」と思われてしまうかも知れません。
また、打診の段階での資料の有無をたずねるのは構いませんが「資料が”出るならやります”」はタブーでしょう。そう言われたエージェントは「資料がこれから先でるかどうか分らない」現在において、具体的にその案件をあなたに振ってくれることはまずありません。万が一案件後に顧客からクレームが出たからと言って「資料が無かったから出来ませんでした。」とエージェントに文句を言うのはもってのほかです。
資料請求の仕方で見える通訳者のスタンス
通訳を日常的に使っていないお客さまでも、真剣に意思疎通を考えているお客さまであれば、こちらがお願いすれば必ず資料を出してくれます。どんな資料が役に立つか分らないようであれば、こちらから「こんなものでも役に立ちます。」と具体的に欲しい資料の内容を指定するのも手でしょう。
エージェント経由であれば、普段から信頼できるエージェントさんと仕事をすることです。安心して資料調達を任せられる、そんなエージェントさんと組めれば最強です。
通訳スキルレベルはそんなに飛躍的に伸びるものでは有りません。そう考えれば事前資料、情報の入手が通訳にとって生命線とも言えます。しかし、プロ通訳の姿勢として「この仕事をやる」と決めた以上は「資料の有無」を自分のパフォーマンスの”言い訳”にするべきではない…と私は思っています。
ここで”言い訳”と言ったのは、資料の有無がパフォーマンスレベルを左右するのは仕方ないことだからです。客観的に評価して「限られた情報量の中でできる全てを出せたかどうか?」…そこが大切だということです。
先輩通訳に「現場に着いた時点で、大方の勝負はついている…。」と言われたことがあります。通訳としての心構えも含め、深い言葉だと思っています。