阪神タイガースが、通訳者を募集しています。
私はスポーツ関連は究極インハウス通訳だと思っていることは、このブログの中で何度も書いている通りです。入団して育つかどうか?は球団側の一番判断の難しいところ。確かに、報酬の多寡に関係なくやりたいという「ガッツの有るヤツ」を取って、そういう人が育てば一番投資効率はいいわけですが…。でも、どのくらいの確率で「育つ人材」に当たるのでしょうか?
先の南アフリカ戦で歴史的勝利を記録した全日本ラグビー主将リーチ・マイケルは、主将の立場で英語ができることは大切…と語っています。これはスポーツという同じルールの元でゲームをするという、表面上は言語能力がほぼ関係しないような枠組みの中でさえ、実は「ことば」がとても大切だということを示しています。
リーチ・マイケル主将の発言は対相手チームや審判での事でしたが、ラグビー日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏の通訳を務めた佐藤秀典氏も、やはり何度もメディアに取り上げられチームの勝利に貢献したと報じられたことは多くの人もご存知の通りです。
松山英樹についていた通訳者ボブ・ターナー氏、アメリカでアスリートを支える通訳者養成アカデミー(ターナー・コミュニケーション・インターナショナル : TCI)を創設しているのはご存知でしょうか?日本にこういう養成学校を作り「育つ人材を育てる」動きは私の知る限りでは有りません。なぜでしょうか?
2020年オリンピックに向けて本気でスポーツを盛り上げていきたいのなら、いずれかの通訳学校が考えても良さそうなものです。しかし、技能訓練して稼働能力を身につけたとしても、その後のキャリアパスを明確(報酬レベルを含め)示すことができないのが原因ではないか?と考えられます。無論、卒業後の報酬を明示したうえでのキャリアパスの紹介…という意味では、通常の通訳翻訳学校でさえ上手くやれているところは多くないのですが。
海外で例えばMLB通訳募集や、ゴルフ選手、その他アスリートの通訳募集をする際も、やはりベースラインの報酬提示は初期募集の段階では皆無なのでしょうか?一般募集でなく、口コミ紹介などのコネに頼る募集であれば口頭で伝えられるパターンも想像されます。
スポーツに限りませんが日本のように「報酬は要相談」というのはズルいと思わざるを得ません。スポーツ通訳でそれをやられると「ガッツあるなら給料をうるさくいうな」的に見えてしまう私の心は曲がっているか…(笑)しかしこのアプローチは確実に「スポーツ通訳にとても興味がある、やってみたい」と考える能力ある人材を遠ざけるものでしょう。
「通訳」という肩書がつく以上、その肩書に憧れを持ち「通訳する」「両言語を操る」ことにチャレンジしたい、あるいは自信があるという人材のはず。憧れだけの人材は「ことば」でつまずく確率は高く、ことばに対して思い入れのある人材であればスポーツ通訳でなくとも確実に収入を得られる職業は他に少なく有りません。
スポーツ通訳者は本当に凄い。私が知っているのはほんの数名の方ですが、スポーツと人とが心から好きで、チームやメンバーとともに一喜一憂できるハートのある人でないと絶対務まらない仕事だな…と思います。技能だけではけしてなれない、人間性の良さ、ガッツが問われる分、そこには特別なバリューがあります。私がスポーツ通訳者を究極のインハウスと思うのはこのためです。
いずれにしても、良い通訳がアスリートにつくことは、日本のスポーツが世界に進出する上で重要な要素だと考えられます。スポーツ通訳のバリューがしかるべく認められれば、スポーツ通訳を目指す優秀な人が増え、確実に「育つ」確率も上がるはずです。そして、すでにスポーツ通訳者として仕事をしている人もさらにプライドを持って仕事をできるようになるのにな、と思います。
何より、スポーツで日本が世界の舞台で戦う姿をみるのは、私はただのにわかファンですが、それでも日本人としてとても誇らしいしすごく応援したい気持ちになります。そして、それに貢献してる通訳者という仕事を思うと、さらに同じ通訳者としてとても誇らしい気持ちになるのです。