2012年9月10日

広 島国際アニメーションフェスティバル

広島国際アニメーションフェスティバルは地元広島でおこなわれる大きな定期イベントとして1985年にはじまりました。隔年で行われてきたこのイベントですが、通訳の肩書で仕事を始めて既に10年以上経つことを考えると、これまでこのイベントに全く関わって来なかった…というのは、とても不思議なことかも知れません。



このイベントには毎回、多くのバイリンガルボランティアが駆り出されていますが、通訳学校へ投資した額があまりに大きかった私は、駆出し当時に「ボランティアで通訳の仕事は絶対しない!回収してやる!」という気持ちが強かったのです。それを思い出してしまいました(笑)。

プロになってからも、実は二度ほどお声がけ頂いたのですが、常勤の仕事で多忙を極めていたためにお断りした記憶があります。

ところが今回初めて、地元エージェントさんよりこのイベントのお仕事の打診を頂きました。仕事内容ははじめての舞台でのエンタメ通訳(と言ってよいと思うのだけど…笑)です。担当するのは世界各国から集まったアニメ制作の大御所達です。

すべての講演者と打合せがありましたが、何せはじめての経験で、通常のスピーチや講演会通訳の打合せとの違いなどを事前に想定できず、最後の講演者の本番まで必ず思い通りに行かないどんでん返しがあって、非常にスリリングなものとなりました。


事前打ち合せにない、全く知らない事実を固有名詞満載で喋り始められる…というのは良くある落とし穴。で、すっかりその落とし穴は仕掛けられていました。でも、ちゃんと打合せをしていても、落とし穴はまだまだ。「最初の挨拶は舞台中央、その後の詳細講演は袖に下がって設置されたテーブルから逐次通訳」…と言うことにしていたため、舞台中央にはメモを持たずに挨拶だけのつもりで講演者と一緒にお出まししたら、しゃべる、しゃべる、しゃべる!笑

なんとかかんとか(上手くかどうかは分りませんが…入念な事前打ち合せのお陰!)切り抜けて、お仕事終了となりました。舞台通訳と言うことで緊張はある程度しましたが、思ったよりも自分自身が楽しんで通訳していたようにあとから振り返ってみて思います。

トップはイリーナ・マルゴリーナさん。有名作曲家の生涯をテーマにした短篇アニメを上映を一遍ずつのエピソードを舞台上で紹介しました。とても繊細な作品集で、歴史的に有名な作曲家を身近に感じることが出来る素晴らしい作品に仕上がっていたと思います。彼女のロシア語訛りと声のトーンの弱さには苦労しましたが、訛りのある英語にも慣れなければ…と痛感しました。

二本目はピーター・ロードさん。創作を始めた当初からの短篇を時系列で上映していく合間に、アニメ技術の進化と新技法の発見を小気味よく説明されました。打合せの時は「難しいこと言わないから大丈夫~!」というご本人…そんな訳はやっぱりなく、ニュース満載で冷や汗な瞬間もありましたが、逆にそれが自分自身の驚きや感動と相まって、とても楽しく通訳させて頂く事ができました。

 




三本目も彼の長編作品の大ホールでの上映でした。この映画残念ながら日本公開は予定されていないようでした…が、もうとにかく元気の出る3Dアニメ映画でした。かなり単細胞かも知れません、私(笑)






四本目の日本の3Dアニメ大御所とされる高橋克雄さんの娘さん、佳里子さんも、二本目のピーター・ロードさんの舞台をご覧になって下さっていて「宮原さんが通訳担当でよかったと思ったのよ!」と言って下さったのですが、これは本当に嬉しい限りでしたし、そのくらい楽しんで通訳させて頂けたと思います。

佳里子さんの講演は、じっくり時間をかけて打合せを丹念にして頂き、舞台上では大変助かりました。高橋作品の一つ「野バラ」は、その平和を訴えるメッセージと彼が発案した3Dアニメの技法や技術が織り込まれた作品として、世界的に数々の賞をを受賞しており、制作から35年経った現在でも高く評価されているそうです。こちらのYouTubeでもご覧になれますので、どうぞご鑑賞下さい。




四本目は、ロシア出身のイゴール・コバリョフさん。打合せの時に用意していたアニメ素材と違うことが分ったりとトラブルもありヒヤヒヤ。幸い本番は意図したものが間にあいました!彼も上映作品を時系列に並べ、それぞれの作品の時代に彼自身が感じていた事や、ご自身の想像力の方向性がどう進化していったかを話されました。質疑応答では、一瞬悪戦苦闘する場面もあったのですが、最終的には彼自身の作品に込めた想いを正しく聴衆に伝えられたと思います。

最後五本目は、マーブ・ニューマランドさん。彼の作品はとにかく楽しかった!そんな見方をするのは邪道かも知れませんが、「とにかく自分が楽しむことが最優先」と言った彼らしく、新たな技法やコンセプトを次々に取り込みながら、どの作品もどこかお茶目な感じ。短篇上映合間の解説では、打合せになかった技法の紹介をされてかなり焦りましたが、舞台袖に下がって鑑賞している間に質問すると丁寧に「心配しないでね!大丈夫だから。さっきのアレはこういうコトだよ。」と説明して下さり、それで命拾いした…という感じです。



講演会やトークの通訳で、一度のイベントでこれだけ多くの方を担当させて頂くのはとてもめずらしいことだと思います。そして出会った講演者(アニメ制作者)の皆さんが、本当にお一人お一人魅力的な方々でした。

ご自分の作品に込められている想いが直に伝わるのはもちろんですが、それ以上に皆さんから「静かな情熱」をヒシヒシと感じました。当初関わられたご自分の分野をとにかく追究することで新たな技法を開発し続けた方、逆に広く様々な分野から刺激を受けたことを作品に還元された方。日本の文学作品や映画監督から多大な影響を受けた方。自分と自分の作品をそうしたエピソードを交えながら彼らが語っている時は「通訳しなくてはいけないから」ではなく、本当にその話の内容に惹きつけられて聞き入ってしまいそうになる瞬間が何度もありました。

打合せから、舞台前後にも、個人的に沢山お話させて頂くチャンスがありましたが、どなたとオシャベリしても本当に楽しくて、こういうのは通訳冥利に尽きる…と言うのでしょうか。感謝の印に…と記念品を頂いたり、ファンの方が聞くと怒られそうなオマケもありました。

今回ははじめての国際アニメーションフェスティバルとのご縁でしたが、出会いに心から感謝しています。ありがとうございました!