2014年7月12日

26. 通訳学校では教えてくれないコト ー フリーランス通翻ビジネスの変化

私が所属するあるメーリングリスト(以下、ML)に、こんな投稿がつい先日ありました。プライバシーの問題もあるので詳しくは書きませんが、要旨は「皆さんはどうやって仕事を確保していますか?」というものです。

そんな投稿に、ML内のメンバーから温かい投稿が寄せられるのを見るのは大変励みになることでした。同時に、返信投稿を見ていてここ3-4年の間に大きな変化が起きている事をはっきりと読み取る事ができました。つまり、直クライアントにアクセスする手段を持つことがフリーランスビジネスの一貫として必須であるとの認識が格段に強化され広まってきていることが分かったのです。

1.数年前までの翻訳者の意識
IJET23を開催したのは2012年の事でしたが、その前年2011年秋におこなわれた大阪プレイベントで、翻訳者はどのようにして仕事を受けているのか?どう自分を差別化しているのか?のようなテーマでパネルディスカッションが行なわれました。私の記憶では、当時は「エージェントを通じて仕事を取ってくるのが基本モデル」というのが多くの方の共通見解で有ったように思います。

そのためか、「直クライアントの獲得についての提言」が明確になされたのにもかかわらず、お一人が「翻訳エージェントになるつもりはない。」という趣旨の発言をされ、各パネリストの発言も付き合いのある複数エージェントとのつきあい方を話されたに終始していました。

2.現在の翻訳者の意識
ところが、今回のMLでの反応はおよそ下記のような内容です。
  • 翻訳者やその他の集まりに顔を出し、自分を知ってもらい個人的なつながりをもつ。
  • 自分の差別化要素をアピールできる情報共有サイトに登録する。
情報共有サイトはいくつか具体的提案までなされ、返信者も同じようにビジネス獲得に苦労された様子が分かります。(同じ仲間が頑張れるように…と非常に有益な情報を惜しみなく出されること、心から尊敬します。)しかし、この2つによって個人翻訳者が多くの翻訳者を抱える翻訳エージェントの目に止まることは非常に考えにくく、行き着く先はやはり直クライアント(直ビジネス)の確保だと言えないでしょうか?

3.現状認識を裏付けるデータ

そんな中、タイミングよく日本翻訳者連盟のJTFジャーナル2014年7/8月号*が発行されており、その中にも大変興味深い数字が提示されていました。(http://journal.jtf.jp/files/user/pdf/JTFjournal272_2014jul.pdf

2014年JTF定時社員総会基調講演「日本翻訳産業の実態〜でJTF理事として登壇された井口耕二さんの講演内容として紹介されている下記の文章です。
受注方法については「翻訳会社から」 が 86.7%であるのに対し、「ソースクラ イアントから直接」が 38.2%と示され ている(複数回答可で重複あり)。ソー スクライアントとの直接取引のきっかけ については、「知人の紹介」が 48%、「以 前からの知り合い」が 43%と圧倒的な 数値を示している。「営業」が 12.7%を 示していることについては、翻訳会社の 営業力の強みが感じられるとの指摘があった。「翻訳マッチングサイト」と「SNS 経由」がそれぞれ 8.6%を示しているこ とについては、インターネット普及の効 果かが見られるとしながらも、意外に低い 数値てであるという印象をもったとの発言 があった。
フリーランス翻訳者をどう定義した上でのアンケートであったかまで確認していませんが、多くの「翻訳者」が直接クライアントを持って稼働していることが分かります。

4.通訳者の意識とこれからのビジネスモデル
一方、通訳業界はまだまだ日本では「エージェント対応モデル」でビジネスをしている通訳者がほとんどです。昨今レート崩壊が叫ばれる翻訳業界に比べると、レートを初め通訳環境を保護する観点から通訳エージェントがこれまで日本市場で果たしてきた功績が大きいため、通訳者とエージェントが強いつながりをもっている事が理由と考えられます。

しかし同時に、海外のエージェントを通じた仕事、国内・海外のお客様からの直接アプローチを受ける機会がじわりじわりと増えているのを身を持ってここ数年感じています。そういう状況の中で「生き残るエージェントはどこなのか?」さらに、フリーランスとして「エージェント対応モデルだけで生き残れるのか?」通訳者も真剣に考えるべき時期に来ているように感じました。

5.フリーランスは自営業
そもそもフリーランス(自営業)という職業を考える時、そのお客様が実は全て仲介業者(エージェント)であるということが少しイレギュラーであったと考えるべきかもしれません。よく言われることですが、フリーランスとは”技術職能を持つ人間であると同時にビジネス活動の主体である。”ということを、今一度肝に銘じる必要が今後よりいっそう出てきそうです。

*JTFジャーナル
どなたでも無料でDLして購読できます。
今号はこの他にも翻訳レートについての考察などとても興味深い内容になっています。

2014年7月5日

25. 通訳学校では教えてくれないコト ー 不安をマネージする 後編

3.「自分の実力」を知る(認める)
ただし、上記で上げた項目では、上から順番に「プロとして市場で稼働できる実力あり」を前提に考えられる選択肢となっていて、最終的に受け入れるのに辛いことかもしれませんが「実力が足りない。」という原因も4.として除外できません。

自分の「技術」を活かして仕事を始めたいと考える時、果たしてその「技術レベル」が市場でお金に還元できるものか?が「仕事にできる/できない」の大きな判断基準になってくるでしょう。ですが、すべての技術系の職業人がプロの域に達してから仕事を開始しているかというと、正直なところそうでない場合がほとんどです。なぜなら技術は訓練で完成に近づき、経験を積み重ねるからこそ独自のスキルが身につくからです。

自分が思うだけの実力が自分にないことを知り認めることは辛いことです。しかし、仮にそうでならそれを認めて戦略を立てるしか有りません。無意味に「不安」な状態を継続したところで、世界の終わりはきませんから永遠に不安と戦う辛い状態が続くだけです。そしてその判断は自分にしかできないのです。

4.自分で判断する。
「自分の技術レベル」は自分で判断する」しか方法は有りません。それは「キャリアのどのステージにあっても」です。そしてその「自分で判断する。」という事こそ、ビジネスの主体として翻訳者通訳者自身が責任を持って行うべき業務なのです。

例えば、通訳としての訓練は通訳学校で勉強することもそうですが、ある程度レベル的に及ばない事を納得づくで低レートの派遣社員として職場を得ることもできるでしょう。ですが「いつフリーランスになるか?」「プロで食べて行くか?」は誰かが教えてくれるものでは有りません。

会社組織に属していれば通訳翻訳者が組織内で使える存在かどうかを、周囲の人の評価から知ることができるかもしれません。しかし、彼らの判断は市場価値という観点から見た「使える/使えない」の判断であり、技術職能を「売り」とする通訳者翻訳者としてやっていく中で一つの指針にはなっても、技術レベルとして自分がどこにいるかの判断基準には本質的になり得ないと考えるのが適当でしょう。

つまり、翻訳や通訳の職能技術に明るくない人からは、自分の実力レベルを知る上で有効な情報やヒントを得られないということであり、裏返せば同業者(一切のエージェントを含みません。)に当たればそれらが得られるということです。

5.仲間を持つことの意義
そうかもしれないけど
違う気もする…
もうお分かりかと思いますが、フリーランスは孤独と思われがちですが、常に孤独なわけでは有りませんし、そうであっては実際ビジネスは成り立たないということなのです。

もちろん、孤独に言葉と向き合いコツコツと自分の中に力を積み上げていく作業は必要です。しかし、多くの仲間を得ることで、仲間から翻訳通訳スタイルやテクニックを学ぶ事ができます。さらに、実はそうやって技能レベルを高めるということ以上に、派遣フリー立場を問わず、仲間を得るということはビジネス上「自分で判断する力」を養う上で重要なことであると認識しましょう。

何より、同じ翻訳通訳に魅力を感じて集まる仲間と共感し合える事は、大きな喜びです。不安も共有した上で建設的に解決するための智恵を仲間が分けてくれるはずです。

私自身も仲間のお陰で切り抜けた場面が数えきれない程ありました。そして、エラそうにこんなブログを書いている私でさえ(ごめんなさい、エラそうで…)、仲間に支えられながら不安と向き合いフリーランス通訳翻訳者として頑張っていることを書き添えておきます。

広島通訳 Tea Salon を開催します

例年、3月の決算締め月に向けて皆さん予算を使い切ろうとなさるのか、2月中旬から通訳業界は多忙を極めます。そんな中、 なんとかかんとか確定申告を終わらせて、週末にほっと一息ついているところです。 このブログのオーナーである私は、今でこそ東京住まいですが、出身の広島には頻繁に帰省して...