2019年10月13日

耳フィード対応:集音器

特に同時通訳時に「耳なし」の現場で苦労する話は同僚の間でもよく聞こえてきます。個人でパナガイドを準備し保険として現場に持ち込む方もおられますよね。同じような悩みを持つ方から当ブログの集音器紹介記事についてご質問を頂きました。個別に返信はさせていただいたのですが、せっかくまとめたので改めてこちらでもご紹介させていただきます。

通訳者の耳フィードには、会議参加者が使う日英チャンネルとは別チャンネルの設定でのパナガイド、あるいは何らかの送受信機セットが必要になります。以下に紹介するBluetoothシステムはその一つです。パナガイドは電波法上、日本国外での使用が違法となる可能性が高いので注意が必要です。

送信機(マイク):参加者音声を拾うために必要な音声入力をする装置
受信機(イヤホン):通訳者が送信機からの入力(参加音声)を聞く装置

送信機にはマイクを接続しますが、通常以下にご紹介するものを含めマイクというと指向性があり特定の入力方向からくる音声を重点的に拾い、その他の方向からの入力はノイズとしてキャンセルされる仕組みのようです。


一人の講演者のステージ上での講義を通訳する場合などは上の写真にあるようなピンマイクを講演者につけてもらい、通訳者が受信する形が効果的です。



一方で、複数名のディスカッションを通訳する場合には、この指向性がマイナスになります。発言者の着座位置は周囲にばらついているため、広範に音声を拾う必要性から指向性マイクよりも「集音器」が有効ということになります。上に紹介する集音器だと4機まで連結して利用できるため広い範囲の音声が取れます。(集音器はつまり「マイク」の位置付け)

なお、通訳者2名で対応する時には分岐として「audio-technica ボリューム付きヘッドホン分配コード AT351L」を利用すると、各通訳者が自分の欲しい音量に調節して受信することが可能です。

1. SONY ワイヤレスマイクロホン ECM-AW4 C
(送受信機)
2. Audio-technica ボリューム付きヘッドホン分配コード AT351L
3. SoundTech CM-1000(集音器)

【備考】
  • 1.と2. は私自身が同僚から紹介してもらった機器ですが、集音器との組合せで機能することを確認しています。
  • 通訳エージェント経由のお仕事では、後のトラブルや混乱を避けるため、使用に際し私は必ず持込の事前許可を得ています。
  • 3. は単体利用のモデルが1,000円程度で出ています。ですが、連結利用での効果が絶大なので個人的にはこちらをお勧めします。

以上、ご存知の方も多いと思いますが、お役に立てれば幸いです。

2019年7月28日

他人事でない吉本興業の騒動ー通訳翻訳業界は?

吉本興業の一連の騒動は、私たち通訳・翻訳者にとって他人事ではありません。私たち通訳・翻訳者はサービスを末端で提供する立場ですが、そのサービス提供に至るまでには複数の事業者が絡むことは少なく有りません。通訳・翻訳者と各事業者間の関係は対等であるのが理想です。では唐突ですが、エージェント業をなさる方、通訳・翻訳者の皆さんに質問です。
  • その仕事が「業務請負」なのか「準委任」なのか理解していますか?
  • 契約書の内容を確認してからサインしていますか?
  • そもそも契約書を交わしていますか?
  • 契約書を交わしていない場合、受発注の記録は残していますか?
通訳翻訳者にとって、通訳翻訳エージェントはサービス依頼者にリーチするための仲介者として有難い存在です。また、獲得したサービス依頼に対し適切に業務をおこなうことのできる通訳翻訳者を確保することで初めてエージェントビジネスが成り立ちます。要は、通訳翻訳者とエージェントは持ちつ持たれつの関係で有り、お互い対等なパートナーだと、私は考えています。

しかし、金銭授受が発生する時、往々にして「支払者」「受領者」間でどうしても支払い優位の構図ができやすくなってしまう。下請法:下請代金支払遅延等防止法はこれを補うための法律です。そして、個人事業主である通訳翻訳者もこの法律の対象です。

吉本興業の件では「契約書が存在しないにも関わらず所属芸人と契約解消する」…などとなんとも奇妙な報道がされています。この報道について、通訳翻訳業界でも他人事と捨て置くことはできないでしょう。

ビジネス上健全で対等な関係を築くため、契約書を交わすようになることは自然な流れでしょう。契約書を交わすケースでは、ほとんどの場合エージェントから文書の提示を受けますし、交わさないケースでも仕事の条件提示はエージェントからなされます。(事業者の規模によっては契約書は必須でないため契約書がないケースもあります)

契約書の有無にかかわらず、個人事業主(通訳・翻訳者)として、然るべき報酬を受け取ることができ、かつ良い仕事ができる環境が提供されることを、提示された条件の中で確認しておくことは不可欠です。この確認は必ず事前でなければなりません。提示された条件について納得のいくものなのか精査し、そうでなければお断りする、あるいはエージェントと納得いくまで交渉し安心して通訳翻訳を引受けることができる条件に両者で合意して初めて取引が成立します。

一方、契約あるいは業務内容を事前に明確にしておくことは依頼するエージェント側にとっても同様に重要です。今回の吉本報道では、吉本興業が 契約書を書面で交わさないことを改めて表明し、芸人さん達との関係性が不透明であることが世間の批判を浴びています。通訳翻訳業界においても同様に、エージェント側が通訳・翻訳者との取引条件を管理しておくことが重要なのも明らかでしょう。

今更当たり前のことを…と言われるとその通りです。でも私自身、駆け出しの頃にはつい「言われるがまま」に仕事を受けた経験もありますし、エージェントとの関係の中で「言い出しにくい」と感じる場面は今でも少なくありません。仮にそこで自分が妥協したとしても「何に自分が妥協しているのか?」「今の妥協が将来の自分に役立つ決断なのか?」を見極めておくことが、エージェントとより良い関係を築くのにとても役に立っています。そのためにも取引条件を明確にしておくことは必須だと考えています。

私自身は特段に法律に詳しい訳では有りませんが、自分が仕事に取り組んでくる中で「何かがおかしい?」と感じた時に一つの手段として法律にあたり、上述のような考え方に至りました。自分が仕事の打診を受ける際には少なくとも

  • 請負、準委任の別
  • 通訳サービス提供時の条件(拘束日時、通訳環境等)
  • 報酬(残業/交通費/移動拘束費およびその他経費の扱い)
  • キャンセル規定(日時変更を含む)
  • 支払条件(支払日、消費税、振込手数料の扱い)

*通訳の場合
を確認し(時には交渉し)てから引受けるか否かのお返事を差し上げ、仕事後にも確認できる形で記録を残しています。取引条件をこのように管理・意識しておくことは、仕事を引き受けるか否かの基準を自分に持つ上でとても役に立っていると感じます。

皆さんはいかがですか?

2019年4月25日

自分の為の転職 ー 会社の辞め方

インターネット、SNSが普及したことでメールやチャットアプリが広く一般に使われるようになり、職場でも関係者間で連絡をとるのに導入される例も急速に増えています。そんな中、退職の意思伝達をメールやチャットアプリでおこない、その後は一切職場に顔を出すことなくそのまま退職してしまう…という話がメディア等でも報道されています。正社員であれば様々な手続きもあるでしょうから、なかなか難しい事もあると思いますが、そこさえクリアできれば不可能な話ではないでしょう。報道を聞くにつけ、メール・メッセージングアプリでの通達のみでの退職は「失礼である」という論調で報じられがちですが、そこには大切な視点が欠けていると常々感じています。「退職する自分の利益」という視点です。

面白いことに「立つ鳥跡を濁さず」で検索するとヒットしたトップ記事の副題には「退職時にトラブる従業員への対策は?」とありました。この記事の最後には

転職回数が多い人は転職する際に自分の利益を優先し転職する傾向にあるので、退職時にトラブる場合も多いようだ。採用の際に過去の転職回数や転職理由も確認した上で、人間性を見極め採用することが重要といえる。

人事ポータルサイト【HRpro】
HRプロ編集部
2015/10/14 より

とあリます。私自身は派遣社員当時、最短4ヶ月、最長4年3ヶ月勤務し、正社員時も含め退職を5回経験しました。退職することを告げて引き留められた事が三回ありますが(それ以外は雇止め)最終的にはどちらも円満退職でした。地方の狭い通訳業界で人材はごく限られていました。揉めて辞めれば引き継いだ人を通じで私の名前とともに揉めたという噂は辞めた勤務先や派遣先にすぐに広まります。冒頭で「欠けている」と指摘した「退職する自分の利益」という視点に立てば、いい加減な態度でいきなり退職してもいい事など一つもありません。幸いにも私の場合、派遣社員当時はブラック就労ではなく「キレイに辞める」事は尚更に重要なことでした。

一方、勤めた職場から何一つ得られるものが無かったという場合には、辞める時にまで心を砕いて勤務先に尽くすというのは馬鹿げた話に聞こえるかもしれません。ですが、その先のキャリアを考える時に本当にそれがプラスになるのか?は誰でもない「自分」が真剣に考えるべき事でしょう。上記の記事では「自分の利益を優先し転職」と有りますが、この読みはごく表面的でしかなく、言葉を補えばトラブルが起きるのは「自分の目先の利益だけを優先し転職」するからというのが正しいでしょう。似たような言葉が並ぶものの、そこには大きな差があります。

馴染めなかった職場でさえ分かり合えて自分を評価してくれる仲間はできるでしょう。あるいは、自分の周りに自分の働きを評価する人はいなかったという場合でも人で成り立つ組織で働いていればあなたの努力を遠くから見ている人はいます。「あの人はままならない状況でも最後まで仕事に向き合っていた」「辞めると決めた後にも残る仲間に寄り添ってくれた」と思われるような辞め方ができるのが理想ではないでしょうか?あるいは周囲の感じ方に託すのでなく、少なくとも「自分が納得できる辞め方」を真剣に模索する必要を感じます。

5社での勤務経験から思うのは、人も組織も自分が思うよりずっと繋がっているという事です。派遣社員として過ごした広島でなく遠く離れた東京でフリーランスとして稼働する今でさえ、過去の職場での繋がりを見つける事は多くありますし、それが実際にお仕事につながった例もけして少なくありません。

転職回数や転職理由ごときで「人間性を見極め」る事ができるとおそらく日本企業はまだ思っているのでしょう。そして「転職回数が多い人は要注意」という考察は正しいのでしょうか?先に発表された経団連会長発言「終身雇用なんてもう守れない」が語る現状は何かを「雇われる側」も真剣に考えてみる必要があると感じます。

ついつい「会社は何もしてくれない」と受け身の姿勢に終始しがちですが「自分は『この先の自分のキャリア』のために何ができるのか?」を真剣に考えれば、トラブルを起こして退職する事が得策ではない事は明らかです。記事によれば有給休暇の会社による買取を労働組合との協定の関係で禁止されている事がこの問題を複雑にしている所もあるようです。ですが、有給を完全消化する場合でも、引き継ぎに妥当な出勤日数を確保して逆算したタイミングで退職の意思を伝えることはできるはずです。

最近、身近な人が10年以上勤務した会社を退職しました。また、近々行く旅行先で15年以上前に4ヶ月しか勤務しなかった会社の当時の上司宅に一晩お世話になります(「泊まってよ!」と言われて素直に Thank you! と返事をしたのはただ厚かましいだけかな…滝汗)。そんなこんなで「自分のための転職」についての一考察でした。

2019年4月24日

令和に向けて…(元号変換アプリ)

2019年の新年のご挨拶もしないままに、先日はとうとう次の元号「令和」が発表されました。皆様お元気でしょうか?(今頃っ!?)この半年、仕事でもプライベートでも大きな変化があり、なかなかブログを書くチャンスが無かった(…というのは半分言い訳です)のですが、そろそろ重い腰を上げようと思います。
本年もどうぞよろしくお願いします。
(今頃すみません…)
元号が改まる今年、私はフリーランスとして完全独立してからお陰様で丸10年を迎えています。情報発信は多忙になると最近は特にSNSに頼りがちになり、独立直後から続けてきたこちらのブログは今回のように長いインターバルができてしまっていました。発信することは自分にとってもモチベーションにもなるので、もう少し時間と労力の比重をこのブログ執筆に振り向けて行こうと思います。SNSやスマホにかかる時間が長くなりすっかり老眼も進んでしまいました。自戒して精進します。

当面は、ここ一年ほどの間に手に入れた便利なガジェット類など、すでにSNSで発信したものも含めて、自分のペース作りも兼ねて記事を書いていこうと思います。今後もどうぞゆるゆるお付き合いください。

という事で、トップを飾るのは令和を前にこんなアプリを…その名も

年号変換(iPhoneアプリ)
TwitterやFacebookでご紹介して反響の大きかったアプリです。改元に伴い、西暦と元号を伴う年号の変換をまた一つ覚えなければならない…という事態に頭を痛めているのは何も通訳者・翻訳者だけではないでしょう。そこで使えるのがこのアプリ。以前から利用していたアプリですが、新元号発表後にすぐに令和対応にアップグレードされていました。

他にも数百ある元号に対応している似たようなアプリがあります。ただ、仕事上は明治以降があれば十分対応できるので、むしろそれ以降をカバーしているこのアプリがシンプルで使いやすく、私は普段から重宝しています。

ちなみに、令和年号から暗算で西暦年号を導くやり方は元号発表後すぐにバズっていましたが、実に覚えやすく暗算の苦手な私にもできそうです(が、それでも間違う自信があるのでやめておきます、笑)。


広島通訳 Tea Salon を開催します

例年、3月の決算締め月に向けて皆さん予算を使い切ろうとなさるのか、2月中旬から通訳業界は多忙を極めます。そんな中、 なんとかかんとか確定申告を終わらせて、週末にほっと一息ついているところです。 このブログのオーナーである私は、今でこそ東京住まいですが、出身の広島には頻繁に帰省して...