2023年4月12日

冠詞の世界 〜 「フローチャートでわかる英語の冠詞」遠田和子著

 英検一級を取得しTOEIC900越えをした頃、恥ずかしながら冠詞をきちんと勉強したことがなありませんでした。知っていたのは中学生程度の理解で、それだけでなんとなく対応していた気がします。英語を使う仕事をするようになり、英文メールやアナウンスメントを書く業務をする段になってはじめて、明確に「冠詞の使い方がわからない」と慌てたのを覚えています。

 基本的なおさらいはするのですが、わからなければ複数形でお茶を濁す…というような適当な感じでメールを書いたりしていたあの頃、振り返ると穴があったら入りたい…。それでも程なく、自分が「使う」場面を超えて「聞く」「読む」場面で非ネイティブの話す/書く英語の誤った冠詞使いで混乱することが続いた事から、誤って理解されるリスクを意識するようになります。以降、体系的に学びたいという気持ちで何冊も参考書を読みました。

 個人的に薦められたり、巷で良いとされる冠詞の参考書があればコソコソ買って勉強したものです。一度読んだだけでは身に付かないと、何度も繰り返し読んだものもあります。ですが、どの参考書も然るべき目次/Indexがあり理路整然とした説明が並んでいるにも関わらず、ぼんやりとしか頭に残らない、整理されて頭に入ってこない…そんな印象でした。

 昨年、そんな私のアイドル遠田和子先生の「フローチャートでわかる英語の冠詞」が刊行されましたが、やっと今頃になって読む罰当たり(発行されてすぐに購入したのに!…汗)。その名の通りフローチャートで冠詞の用法を解説した画期的な内容でした。冒頭でまず、辞書の読み方や調べ方を説明されています。そうすることでこの本の内容は代表的な用例の解説にとどめ、どのような視点で捉えるべきかに重点を置き、冠詞の世界をフローチャートで理解できるようにまとめた一冊です。

 本書を冠詞の指南書としてまず一番に手に取っていたらより整理して理解できたかどうか、は正直わかりません。ですが、それなりに知識のある状態で読んでみたところ、今までのぼんやり感がずいぶん整理されました。初学者か学習経験者かを問わず、まずは本書を入り口として、細かい使用法や使用法のさらなる検証は別の参考書に当たる、ということを繰り返しながら冠詞の使い方の定着を確実に図ることができそう。お勧めの一冊です。

Amazonの評価もとても良いですね!
遠田先生のご著書が評価されてファンの私も嬉し〜

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 蛇足ですが、私が持っている(一応、通読した)冠詞の参考書です。これ以外にも一冊、電子書籍で「3つの基本ルール+αで英語の冠詞はここまで簡単になる~ジェームス・M・バーダマン (著) ネイティブ精選192問」も購入済み。(つまり通読できてないものが、これ以外にもあるわけで…汗)

「英語の中の複数と冠詞」小泉健吉郎著
 初めて通読した冠詞専門書です。英日完全バイリンガルの知人に勧められ購入しました。知人はいくつか読んだ中で「一番わかりやすかった」との事でしたが、私には大変難しく感じられました。用例の細かい説明が多数紹介されています。読んだ時には「そうか」と思うのですが、自分で同様の判断や説得力のある説明ができるか…となると難しかったです。

「英語監視講義」石田秀雄著
 遠田先生の本に出会うまでは、これが私の中のベストでした。加算/不可算、単数/複数、定冠詞/不定冠詞の対比で解説されており、これはこれで体系的に読み進めることができる一冊です。ただ、用例解説で説明に深く踏み込んでいるため、各分類の中でもパターンを個別に覚えるしかないような印象が残りました。その為、数回はこれまで通読しています。遠田先生の著書でも基本は変わらないのですが、段階的にフローチャートにまとめられている分、感覚的に難易度が緩和されています。

「現代英語冠詞辞典」樋口昌幸著
 これを通読するのは修行でした(笑)。とにかく用例集として活用するのが吉。通読はお勧めしません〜。

「本当の英語の冠詞の使い方」デイビッド・セイン著
「3つの基本ルール+αで英語の冠詞はここまで簡単になる~ ネイティブ精選192問」ジェームス・M・バーダマン 著

 この二冊は練習問題集として考えるのが良いと思います。特に「本当の英語の〜」の方は、「ネイティブはこう解釈する!」という説明なので、日本人脳で自分から能動的に冠詞を選択する手がかりには乏しいと感じます。

2023年3月13日

気づけば3月…

 明けましておめでとう…などという時期はとっくの昔に過ぎ去り、すでに桜の開花予想が出る時期になってしまいました。このブログを始めて10年以上になりますが、こんなことは初めてです。そのくらい2022年秋以降の通訳市場の繁忙ぶりは異常だったことは、通訳業界に身を置く方なら誰もが経験されているはずです。

ということで、こんな時期ではありますが…

2023年もどうぞよろしくお願いします。


 異常な繁忙ぶりだったからといって、新年のご挨拶ができない程に時間に追われていたかというとそうでもなく、リモート案件の増加をうまく利用して人々がすなるワーケーションと云ふものを私もしてみんとてすなり…なことを、年明けから何回かやってみました。

 このブログで書いた記憶があまりないのですが、運動音痴に加え寒いのが嫌いなくせに温泉地でスキーを楽しむのを趣味にしています。6−7年前から再開した趣味ですが、昨年は久々に板を購入したこともありシーズン前から楽しみにしていました。仲間と予定を合わせるのが難しくそれなら一人で行こうということで決行。

 一月中旬に越後湯沢の岩原スキー場(新潟)、一月末に仲間と行った数泊を延泊してアルツ磐梯(福嶋)、二月に仲間と行く計画に前乗りして北志賀よませスキー場(長野)という具合です。

 ワーケーションで大切なのは、当然ながら仕事優先の姿勢です。つい目の前にあるゲレンデに欲張りな気持ちが芽生えますが、普段の仕事と同じように余裕を持って会議前にスタンバイし、ゲレンデでも欲張って体力を消耗し切らないことにも気を遣いました。また、今シーズンが初の試みだったため用心して初めてのお客様やパートナーと入る会議はブッキングしませんでした。出発前に宿のネット環境やスマホの残りギガ容量を確認しておくことも重要です。また普段と変わらない音声クオリティを担保するために、自宅セットアップから大きく劣らない機材セットを持ち込みました。

 そろそろ雪は緩んでシーズンも終わりです。スキー場でのワーケーションは今シーズンはもうなさそうですが、旅先でのワーケーションも計画してみたいです。特にコロナ禍で海外渡航を控えていたせいで「そろそろどっか海外行きたい!」という気持ちがウズウズ。行き先を思案中のこの時間、もう少し楽しんでみようと思います。

 ということで(?)改めて本年もどうぞよろしくお願いします。

宮原 美佳子
ピースリンク通訳事務所

2022年11月3日

AI通訳翻訳は脅威か?

 先日、地方から出てくる学生時代の友人が幕張メッセで開催中のメタバース展のために上京するというので、友人に会うついでに私もちょっと覗いてみることにしました。主にメタバースが提供するコミュニケーション(会議/イベント/遠隔トレーニング)プラットフォームの企業ブースを周り、同時通訳用チャネルの用意があるか聞いてみましたが、皆無でした(笑)ゲームプレーヤー向けのプラットフォームでは、すでにAI通訳による対応が導入されているようです。「AI通訳かぁ」と何の感慨もなく、思わず心中棒読みで呟いた次第です。

最近はNHKや民放放送局でもAI字幕翻訳で放送するようになりました。瞬時に意味の分かる字幕が繰り出され、不自然な部分もありつつ、ニュース全体として情報を理解するのに特に困らないレベルです(だから放送しているのでしょうけれど)。

NHK国際ニュースナビ 

【AI翻訳】プーチン大統領 演説動画 ウクライナ4州併合を宣言 2022年10月5日

時期を同じくして、監査案件で客先に張り付く仕事を終日対応しました。通訳対応は数回のみ、それ以外はお客様の指示で契約書翻訳をしました。機械翻訳OKとの事でDeepLにかけた後にいわゆるポストエディットで調整という作業です。DeepL出力文章も捨てたものではありません。法律文書である事を意識した文体での出力で手直し不要のセンテンスも有ります。が、周知の通り処理不能な箇所はすっぽり飛ばしたり、混乱してるのか同じ箇所に複数の訳文を出力したり、はたまた定型表現に一部マッチするところは原文にない文章を丁寧にでっち上げていたり…というお約束の展開でした。

個人的には「人間通訳翻訳者がAI通訳翻訳の進化に脅威を感じるべきか?」と問われると、正直「どうでもいい」という感じです(投げやりでごめんなさい)。AIがどんな進化を遂げているのかは興味深いし、業界に入り込んで物議を醸している以上、動向やレベルを知っておいて損はないと考えています。でも「それに対して」私達ができること、私は「何もない」と思っています。

仕事がAIに奪われて無くなる、じわじわとそれは進んでいるし、その未来はどこかの時点できっと来るのだろうと思います。でも、心配してどうなる?通訳業界の歴史で見るなら、鳥インフルエンザ、リーマンショック、新型コロナウィルス、と一気に仕事が消えるような事態は過去に何度かすでに訪れています。この先も、しかも恐らくAI通訳に人間通訳の仕事を全て奪われるまでの間に、また同様の仕事が消える事態が起こる可能性は十分に有ります。AIの脅威などよりむしろそちらの方が私はずっと現実味を帯びて脅威だと感じます。

「仕事が一時的に消滅する事態」に対してできる事は、個人事業主としてビジネス面からの備えを考え、技術職として技術の維持向上に意識を向けること、ではないでしょうか。
業界全体がそれらの誤った使い方を推進する事には反対ですが、AIや機械翻訳をただただ敵視するのはナンセンスだ…という気がします。実際、恥ずかしながら、限られた準備時間の中で調べ物の段階でネット情報を楽に大量に読むためにDeepL、とても役に立ってます。

2022年11月1日

通訳者の声のトーン - その1

通訳場面では「どのような声のトーン、ボリューム、ペースが適切か」については、かねてから興味があり自分自身であれこれ考え、発声法を試してきています。大方の結論として自分自身に課しているのは「トーン下げる、ボリューム下げる、ペース下げる」の原則です。

調子が乗ってくる、緊張してくる、集中度が高まる(集中していないともちろん通訳はできないのですが…)な状況で、私はどうしても声のトーンが上がり、ともすると声が「上ずる」までになりがちでした。さらにそういう時のペースは一様に早く、ボリュームも通常の話し声レベルでの最大になっていたようです。「トーン下げる、ボリューム下げる、ペース下げる」の原則を自分に都度課すようにしてからは、その成果か緊張していても少なくとも声が「上ずる」ことはほぼ無くなりましたし、逆に緊張してきても落ち着いて訳出することができるようになりました。

しかし、上ずらなくなった時に自分が自然に出せている声のトーンのレベルについて気づきがありました。これは同時通訳時ですが、どんなに意図しても自分の音声トーンレンジの「最低トーン」で話す事がなかなかできません。それどころか、むしろ「低いトーン」での訳出では聞き取りに影響が出る感じがする、つまり聞こえづらい感じがしてどうしても意図したトーンよりも少し高めのトーンで訳出しているようです。

英語は日本語よりも喉のより深い場所を使う方が発声しやすく、勢いそうして出す声のトーンは低くなります。また日本語でもそうですが、低い声のトーンの方が落ち着いている、信頼感を与える印象が期待できます。その為「低いトーン」での訳出を心がけていました。

色々考えてみてたどり着いた仮説は、この現象は会議参加者に男性が圧倒的に多い事に起因するということです。ご承知の通り男性は一般的に女性よりも低いトーンで話します。その為、自分の声のトーンを下げると聞こえてくる音声と干渉する感じがして、自分自身の声が聞こえにくいということがあるように感じます。私の地声は女性にしてはかなり低めなので、その傾向が顕著なのかもしれません。

加えて、以前からそうでしたが男性の低い声、いわゆるイケボは私にとっては非常に聞き取りづらいのです。(いえ、イケボは大好物なのですが…)これは同僚通訳者からも同様のことを聞いたことがあります。ある程度の高さのトーンの方が、大多数の男性の音声の中では際立って聞こえると言えるのではないでしょうか。実際、聴く側の立場に立った時にも男性の低いトーンの声に混じって聞こえてくる女性の声は、多くの場合瞬時に聞き分けられることを考えれば納得がいきます。

少なくとも私自身は自分の音声トーンレンジで最低トーンより少し上のトーンを目指して発声する方が良いようです。

2022年4月24日

JAT PROJECT2022「通訳キャリア構築法 - キャリアパスの歩き方のヒント」

  昨日開催されたJAT PROJECT2022で会議通訳者として「通訳キャリア構築法 - キャリアパスの歩き方のヒント」と題して講演しました。公開の場で人前に出るのはとても久しぶりで、少し緊張しました。ただ、参加者もそれほど多くないことを事務局からお聞きしていたこともあり、またリモートで自宅からのスピーチということもあり、本番はリラックスして臨むことができました。

 最初は自身のキャリアパスをなぞりながら、節目毎に判断を要した内容に触れる形でトークを構成しようと考えていました。ですが、それでは聞いてる方がどうご自身に役立てれば良いか分かりにくい…と気づき、前の晩に一から作り直しました。

 結果としては良かったと思っています。視聴くださった方からも一部個人的にポジティブなフィードバックを頂きホッとしています。キャリアパスの歩き方と言っても、私自身が現役通訳者してキャリアパスの途上になります。つまり、お話しした内容は今も自分の判断基準の軸というか信条のようなものになっています。もちろん、キャリアパスの何処にいるかで具体的な行動は変化すると思いますが、それでも基本的な姿勢として変化しないものですし、むしろ変化してはいけないものと近年では考えるようになりました。

 昨今、情報商材や安易なコーチングが通訳翻訳分野でもSNSを騒がせている現状があります。多くの先輩方が日々言葉や仕事と真摯に向き合う様子を間近でみていると、それが詐欺的であることはすぐにピンときます。ですが、初学者にとっては「すぐに〇〇できる!」「みるみる上達!」というコピーは魅力的なのだろうと思います。今回のスピーチではそういう安易にできる的な期待は望めないこと、時間をかけてじっくり歩むべきキャリアパスですよ、というようなことをお話ししました。

 質疑応答では、通訳学校に通うべきか?や、地方在住で通訳キャリアをどう考えるべきか?などまさに私自身がかつて考えていた疑問や不安の声を聞くことができました。私なりの回答をしましたがお役に立てれば嬉しいです。

録画はご勘弁いただきましたが、資料はこちらで閲覧可能にしています。諸々手配くださったJAT事務局、そしてご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

2022年1月17日

The written word will flourish in the post-pandemic workplace (The Economist誌より)

The Economist:
Remote work and the importance of writing

The written word will flourish in the post-pandemic workplace

 受講しているニューストピックをディスカッションする講座で、The Economist誌からこの記事を取り上げて発表したのだけど、数日経っても色々考えてておもしろいなぁと思ってます。

 文章を書く行為は日本的にいうと文系的行為なんだろうけれど、情報を伝える為の書く技術の重要性を説いてるのがGoogleやGitHubといったテック巨大企業だとこの記事では紹介されてます。考えてみればソフトウェアを作るのに必要な様々なプログラミング言語は「言語」な訳で、本質的に理路整然と書くことで成立するプログラムを書くには「書く技術」が必要なのは当然と言えば当然。
 リモートワークになって議事録用にミーティングを録音されるお客様が増ましたが、後でその議事録を見せてもらうと、まとめた方の「書く力」が分かるというか、うまく行ってるプロジェクトの議事録はよくまとまっているけれど、そうでないのは以下略…笑
 理路整然であることは当然の要件とはいえ、独りよがりでなく、時宜にあった、さらに読み手の共通理解を前提として考慮したトピック設定、理論の展開、さらに伝えるべき事実の伝達というのは、それだけで本当に技術がいることだなと再認識してます。
 そして動画やスライド利用のプレゼンも、核になる企画書(書き物)が(頭の中であれ、どこかに)存在していることで、意図した内容を意図したレベルに近い形で表現できる気がします。すべての思考はきっと書くことから始まった…と過去にどこかの偉人が言ってないでしょうか?笑。
 私自身、誰の目にも触れないけど自分が気の赴くままに、時には自分の思考を整理するために文章を書くということを普段から割としてて、それはとても楽しい。でも、過去に何度か多くの人の目に触れる場所に文章を書いているので、こういうコラムを見ると、改めて振り返るの怖い感じがしてしまいます。でも、全ての思考の展開は書くことから始まると信じて、恐れずに自分なりに「まず何でも書いて文章にしてみる」という行為を続けていきたいと思います。
 …と書いた後で、この文章大丈夫か??
と心配になりますが、まぁいっか〜。

2022年1月4日

2022年もよろしくお願いします。

 

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。

 昨年の初ポストは何を書いていたか…?と振り返ったところ、新型コロナ感染者数が猛烈に再拡大したお正月となり、海の向こうアメリカでは議会に暴徒が押し寄せ犠牲者が出た事件が発生したことが記されていました。新型コロナウィルス蔓延後とうとう二度目のお正月を迎えたことを改めて噛み締めた次第です。

 一昨年にもまして2021年はお客様や仲間達に支えられた一年となりました。政府の水際対策が継続し海外との人の往来が回復しないことには、通訳市場の需要は一部ごっそりと欠けたままであることは間違い有りません。しかし、新型コロナウィルスとの付き合い方に慣れてきた昨年は一昨年と比較すると、数多くのかつての現場がリモートで復活、そして新たにリモートをスタンダードとして始まったプロジェクトも多く存在したようです。直ビジネスに加え、エージェントさんからのご照会も随分復活して、一昨年に比較してお陰様で仕事量は大きく持ち直しています。

 その中でも昨年印象に残ったのは、自身が学ぶオンライン通訳の講座で特別講座を持たせて頂き、個人事業主ビジネスのプロセスの一例をご紹介させて頂いた事です。実は、ここ数年はできるだけ同業者の集まりで人前に出ることは避けてきました。久々に同業者の前で話すという事もあり、入念に準備をおこない、テーマに沿い網羅的にお話しすることができたと思います。直後から、早速とても役立った、実践的でわかりやすかった、と個別に沢山の感想を頂きホッとしましたし、お役に立ててとても嬉しかったです。

 また、現場に出向くオンサイトリモート案件で久しぶりに同僚と対面でご一緒する事が有りました。以前には気付かなかった同僚の心配りに、コロナ禍で臨む環境でハッとさせられることが有りました。多くは先輩方なのですが、一見すると何でもなかった事にも意味があることを知ったり、細かに配慮してくださっていた事に改めて気付かさました。フリーランスで10年以上稼働していますが、自分自身がまだ余裕を持って同じレベルで配慮ができていない点は通訳技術の向上と共に精進していくべきと気持ちを新たにしました。

 仕事を離れて個人的なところでは、昨年は誰も住まなくなった実家を解体し駐車場にするという大仕事を一つ片付けました。家族から「全て不要。廃棄してよし」と聞いていても、かつて慣れ親しんだ物、部屋、家を誰でもない「自分の手」で手放す、廃棄する、解体する、手続きを進めることは心の痛むことでした。やった者にしか分からない痛みだったと思いましたが、だからこそ自ら進めた事は私にとって良い経験になったと思っています。

 簡単に昨年を振り返りましたが、振り返りはこれでお仕舞い。過去は戻って来ないので、新たな年は、前向きに、昨年よりは少しだけ前のめりの姿勢を心掛けます。年末からオミクロン株の拡大が伝えられ、すでに国内の市中感染も全国的に見られ、新型コロナの状況は一進一退しながら今年も進むことが予想されます。前のめりを意識しつつ、それでも今年も一つ一つのお仕事を大切にしながら、仲間やお客様と一緒に前進して参ります。

 本年もどうぞよろしくお願い致します。

宮原 美佳子
ピースリンク通訳事務所

2021年11月4日

要事前確認!延長時の交代対応

 未だに鎖国状態ですから相変わらずオンサイトイベントは復活していませんが、リモートでは秋真っ盛りよろしくWebinarなどイベントの打診を頂くようになりました。

 オンラインでのイベント案件では参加者への配慮から、従来のオンサイトイベントと比較するとスケジュールが時間通りきっちり進むものが多い印象です。通常、イベントでの通訳分担はエージェントさんが事前に決定して通訳者にご連絡下さいます。実は、先日のお仕事でも分担が決まっているにも関わらず焦る出来事がありました。

 30分予定のプレゼンで前後半それぞれパートナーと15分毎の分担でした。私が後半を担当したのですが、15分経っても終了しません。16分、17分と経つうちに苦しくなり別回線のパートナーに合図をして18分で何とか交代できました。

 隣に座っていれば気配で察してもらえるため、これまでこういう場合でも難しさを感じることは稀で、多くの場合パートナーが気づいて引き取ってくれていました。リモートでは画像有りの回線接続であっても、人によっては交代タイミングでしかパートナー画面を確認していない、中には音声も交代タイミングでしか流されない方もいらっしゃいます。

 対応のパートがオーバーランした時の対応については、一言事前に確認しあっておいた方がいいという事を学びました。

 それにしても、割り当ての時間をこなすと「やることやった!」という意識からなのか、途端に苦しくなり焦る現象はなんでしょう…?事前に「20分まではやる」「終わりまでやる」と決めておきさえすれば苦しても少なくとも焦りはしなかったはずです。

 「これは自分のパート」と覚悟を決めて最後まで担当することができず、パートナーにヘルプをお願いしてしまったのも少し反省でした。ただ、結局はそのパート、オーバーランすること7分。交代してもらって正解でした。

 リモート通訳珍道中は続きます…

2021年9月30日

「運まかせ」でない勘どころ

 会議出席者の発話に訛りやアクセントがある場合には知っている言葉もそれに聞こえないというのはよくあります。苦労します。訛りがきつい時は本当にツラい。ですが、英語ネイティブスピーカーでない私が話す英語にはそのまんまブーメランなので、ツラいと表明することも申し訳なくは思っています。ごめんなさい。

 先日、取り扱いに注意すべき個人情報を適切に管理する、という文脈の話を通訳した時のこと、ある場所に格納された情報項目を列挙していくのですが…

fist name, last name, address, phone number, card number…

ファーストネーム、ラストネーム、住所、電話番号、カード番号…

 と、ほぼ自動的に訳出しながら、なんか違和感。日本語で「カード番号」というとほぼクレジットカード番号を意味します。しかし「英語では credit card number と 必ず credit を言うよね?」と頭によぎり、でも「sensitive information の話をしてるから間違いないはず。」とわずかな違和感をはたしてあっさりと打ち消してしまいました。そして、そして2-3回目からの訳出ではかなり堂々と、ご丁寧に「クレジットカード番号」と訳出してしまいました。

 が、なんと card number ではなくcart number でした。話者は英語ネイティブではなかったのですが、通販サイトでカート内にユーザーが入れた商品点数をこう表現していたようです。確かにトピックはEコマース。であれば「カート」でピンとくるべきか?運任せに聞こえた通り「カード番号」とせずに確信を持って「カード番号」とまでしたものが全く裏目に出てしまいました。でも sensitive information じゃないし…と、脳内で言い訳をグルグル回しながらも、誤訳なのですぐに訂正した次第です。

 扱うトピックについて「勘どころがある」「勘がはたらく」と言うのは割と大切なこと。実際、私たちは日常の会話では常に、あれ、それ、これなどの指示語を巧みに用いて相互理解を成立させています。明示的に何かを言われなくても「あの事を話している」とピンときたり、ピンとまでこなくても「何となくそういうことかなぁ」でどうにかなってしまっている訳で。

 だけど、ピンとこなかった…。それどころか「もっと昔はカートではなくてバスケットだったよね?」「ほらバスケットサイズとかいう用語もあったし」とか、どうでもいい事まで思い出す始末。

 明日もがんばります。

2021年8月7日

進化するRSIオフィス環境 ー 大型ディスプレイ導入

  長いこと欲しいと思っていた大型ディスプレイ。RSIの案件が増加して以降、多くの通訳者から「Game Changerだった!」と聞いていたものの「無くても死なない」という状態が続いていたこともあり、なかなか購入に踏み切れずにいました。東京の3回目の緊急事態宣言が明けてすぐに所用のため広島に戻ったのですが、家人が購入して使用していた大型ディスプレイを拝借して4日間使わせてもらいあっさり購入を決めました。ちなみに私が購入したのはこちらの商品です。

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 大型ディスプレイですから表示面積を大きく確保できるため、1. リモート通訳時に共有された資料を大きく表示して確認できる 2. 手持ち資料や用語集を常時確認しながら通訳できる、は当然のメリットとして期待していたことでしたが、それに加えて決め手になったのは以下のポイント。

  1. デスク上の配線が多少ではあるがスッキリする(ディスプレイに付属のUSB-Aおよび給電接続)

    外付けマイク、サブ回線機材、ミキサー等を使用しているためオーディオ系のケーブルがかなり煩雑にデスク上にあり、この配線を少しでもスッキリできるのはメリット。
  2. ラップトップ画面とのマウス移動のスムーズさと画面配置のフレキシブルさ

    私はマウスではなくトラックパッド操作のみで使用しています。画面配置を詳細に設定できてほぼラップトップ画面とのカーソル移動にストレスがありません。(ラップトップ画面をそのままミラーリングで使用することも可能)
  3. 解像度選択の自由度の高さ
    
Macbookの Ratina画面は非常に画質が高く、外付けディスプレイのスペックによっては長く使う間に画質の差がストレスになると聞いていました。その点、私が購入に踏み切ったディスプレイは4K対応で長時間の利用でもストレスは今のところ感じていません。

一方で、使用し始めてわかった事(いいことばっかりでもない…)も有りました。

  • グラフィック処理にCPU負荷増加しラップトップのファンが轟音をあげ始めた(特にMS Teamsで顕著…)
  • RSIプラットフォームには一定以上のブラウザサイズに対応しないものがあり、画面拡大してもコンテンツサイズは追従しない


 こうなると、Mac使いとしてはファンレスのM1チップを詰んだ新しいMacBookが欲しくなるのは当然な展開。でも、ラップトップは現行MacbookProがあるのだから次に買うのはMacMiniでも良いのでは?と夢は広がりますが、もう少しよく考えようと思います(笑)

でも、大型ディスプレイを購入した事は概して正解でした。

 これまでのブログ投稿で紹介してきませんでしたが、外付けマイクやミキサーもすでに導入してすっかりRSIの最適な環境が整いつつあります。これからも必要に応じて進化していくと思いますが、こうなってくるとオンサイト・リモート案件ではよほど環境が整備されていないと、パートナー通訳者とのハンドオーバー以外には不便さえ感じるようになってしまいました。

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 デスク左下にはシュレッダーとゴミ箱、右下にはプリンターを配置。奥に同じ幅のデスクをもう一台設置し、コロナ禍が明けたらここで二人同通もできることを想定しています。パートナーにオフィスに来てもらう手間は発生しますが、未だにハンドオーバーでは神経を使うことが多く、また稀に発生するオンサイトRSIでのスムーズなハンドオーバーと仕事後のちょっとした息抜きのおしゃべりや情報交換は恋しい…というのが本音です。

2021年6月14日

通訳業界の動向ー今後のカンファレンス形態

 コロナ禍に明け暮れた2020年の通訳業界だったと思います。私自身も大きく影響を受けました。業界的にはどうだったのでしょうか?SNSでの個人の発言は断片的で、個別の「仕事が戻ってきてる」「もう完全に回復した」という言葉をそのまま鵜呑みにするのは違うと思いつつも、全体的な動向を俯瞰して見せてくれるデータがないことに不安を募らせる通訳者も多いと思います。

 先月、日本の唯一の上場翻訳通訳会社である株式会社翻訳センターが昨年度(2021年度:2019/4-2020/3)の決算発表を公開しています。通訳部門の売上だけ見れば2020年を100%とすると2021年はほぼ50%まで落ち込み、2022年度の売上予想も対2020年で60%までしか回復しない想定です。営業利益では2021年度は通期マイナスで推移しています。

 JTFの業界白書(かなり高額ですがAmazon購入可能)も発表されています。内容を分析し先週開催されたオンラインの解説も録画で視聴してみました。通訳者の動向については回答者の数と属性に偏りもあり、個人的にはここから何らかの結論を導き出すのは難しいと感じました。

 以上のことから、個人的な細かい解釈はここでは控えるべきとは思います。しかし、大手一社の動向が業界全体を表す物ではないことは認識しつつも、市場動向がコロナ禍前のレベルまで回復するには相当の時間がかかるという印象です。あるいは、回復期間にはリモート通訳の出現も受け、業界構造が大きく変化していく可能性もあるのではと見ています。

 そこで気になるのは、リアルの現場が戻るのか?ということではないでしょうか。徐々にでなく一気に情勢が変化し、今はリモート通訳が完全に主流になりました。見込まれる増加ボリュームの多くを占めるのは、リアルイベント関連の会議ではないかと思います。

 需要回復の理由として「人は人に会いたい生き物だから」を否定はしないのですが、それだけでリアル市場の回復を説明するのは、私としては少し乱暴な気がしていました。リモートの利便性を人々が知った今、本当にそれだけの理由で以前のボリュームが元通りになるのでしょうか?私自身もこの辺りはまったく予測がつかないでいます。

 そんな中、先日聞いていたPodcastで面白い会話があったのでご紹介します。何らかの結論を導き出す物ではありません。しかし「人はお互い会いたいから」という単純な説明に終始せず、もう少し踏み込んで丁寧にケース分類をしています。ホストとゲストが実際に過去1年間に参加したカンファレンス経験などを基にこの先のカンファレンスのあり方に多少の期待を膨らませながら進められたトークになっています。

 ご興味ある方はぜひ。全編は超絶長いのですが、以下のリンクから「Chapters」タブを開き「バーチャルカンファレンス」をクリックすると該当部分を聞く事ができます。

Rebuildfm June 1/2021 306: Complaining Bot (takoratta)

…余談ですがこのRebuildfm、US在住のホスト(宮川達彦氏)が毎回さまざまなゲストをIT業界を中心に招き、ITを中心に、しかしITに止まら無い社会情勢から時には超個人的な趣味に走ったトピックまで、毎回なかなかにダラダラなのですが中毒性のあるチャンネルです。

冠詞の世界 〜 「フローチャートでわかる英語の冠詞」遠田和子著

 英検一級を取得しTOEIC900越えをした頃、恥ずかしながら冠詞をきちんと勉強したことがなありませんでした。知っていたのは中学生程度の理解で、それだけでなんとなく対応していた気がします。英語を使う仕事をするようになり、英文メールやアナウンスメントを書く業務をする段になってはじめ...