2011年1月21日

「『英語公用語』は何が問題か」鳥飼久美子 著

この本は日英通訳者の中でもトップクラス通訳として活躍された後、現在立教大学で通訳論等を教えられている、あるいはNHK英会話講座では一般の方にも大変なじみ深い鳥飼久美子先生のご著書です。

昨年の春以降、楽天やユニクロといった成長企業で相次いで企業内英語公用語化計画が発表されました。私自身この問題には大変興味が有ったため、以前のブログでも取り上げて持論を展開していました。

私は、純国産で普通に学校教育を受け、英語を職業とするまで勉強してきた一個人の立場から、企業内英語公用語化については「問題である。」という意見です。

しかしながら、私がこれについて語るとき、ベースになっているのは私自身の経験だけです。それに対し、鳥飼先生は非常に詳細にデータ収集し、それらに基づいて分析を行われています。

鳥飼先生ほど経験豊富な方であれば、その経験の中から十分納得のいくエピソードを交えながら説得力のある内容に仕上げることは可能だと思います。

しかし、本書は敢えてそうしたアプローチをとっていません。データを提示分析した上で先生が持つ経験則を例示しています。それによって、論旨を強化することに成功していると感じました。

各章末には参考にしたデータの出典が数多く記載されており、ここからも執筆時にデータに基づいて論ずることを強く意識した様子がうかがえます。具体的な数字、事実を元に論理を組み立て、実際の英語公用語化では何が問題か?を顕在化させています。
その上ではじめて、顕在化した問題への具体的な対応の仕方を、事実と先生のご経験の中から示されています。

そのため本書は、英語公用語賛成派が切り込んでくるときにありがちな論点にも、十二分に太刀打ち出来る内容だと言えるでしょう。その文章の力強さを非常に頼もしく感じ、全編大いに共感し「よくぞ先生言ってくださった!」と思いながら一気に読み終えました。

論点としては、一般企業における英語公用語化の波、TOEICによる英語能力評価、英語学習者のモチベーション、職場で要求される英語レベル、言葉と表裏一体の文化、コミュニケーション力等、が取り上げられており、日本人の英語学習者にとって興味関心の対象かつ重要な点が網羅されています。

まずはビジネスの現場で懸念される事、そして一般の人たちの反応を丁寧に取り上げながら、最後にはコミュニケーション力とは何か?という命題にまで切り込む。読者がすんなりと受け入れ、理解しやすいのは、こうした具体論から総論への流れを、読者の興味関心に沿ってスムーズに展開しているためだと思います。

単に研究をされているだけでなく、実地のコミュニケーションの大舞台で活躍された鳥飼先生だからこそ、説得力を持ってこうした流れを作り出せたのだと思います。

ただし、1つアマゾンの書評を見ていて気になったことが「この本を読んでそんなに英語に必死にならなくていい、と思われては困ります。」という内容が散見されたことです。あくまでも論じている内容は「ビジネスシーンでの公用語化」であり、英語習得の是非についてではありません。

鳥飼先生は英語で何ができるか?そして、(英語だけ出来ても)何ができないか?について熟知されています。その立場からの「英語公用語化は問題である」との提言、であることを見落としてはならないでしょう。

実際最終章を読めば、英語学習という行為や、日本人に英語を習得して欲しいと考える先生の英語への愛情のようなものが十分感じられます。決して日本人に英語を学習するなとは言ってません。

通訳、翻訳についての言及も多く、これから通訳翻訳を目指す方にとっても、言語間の橋渡しをすることの意味を深く考えさせてくれる本です。