アジア杯をねらうザッケローニジャパンを伝える昨日のニュースです。
ニュースの表題は「ザックJ思わぬ落とし穴 コミュニケーション不足で指示伝わらず」です。よくよく読んでみると二つの”コミュニケーション不足”があったようです。
まず、現地初戦に臨む前のサッカー協会とザッケローニ監督の間でのコミュニケーション不足。 次に、試合中第四審判に通訳を退けられ、フィールドで一人「指示を出した(?)」ことにるコミュニケーション不足。
前者は、コミュニケーション不足と言ってしまえばそうですが、何故そういう状況が起こったのか?を考えると、やはり通訳の力不足だと私は思います。
私は現在ザック監督の通訳である矢野氏のことをよく知っているわけではありませんから、彼の語学能力や、通訳スキルの有る無しについては言及することが出来ません。 それでもなお、力不足だと思います。
サッカーのことは全く詳しくないですが、監督付通訳ともなると、一般企業で言えば会社幹部、しかも役員クラス、いえ、チームを軸に考えれば社長付通訳のような存在でしょう。 そこで考えなければならないのは、社長付通訳がやるべき事は、果たして「通訳業務」だけか?という点です。
監督は英語もほとんどままならないと言うことですので、通訳が居なければ日常のことは全く情報シャットアウト状態で仕事をしているわけです。 通訳業務の必要になるときだけ通訳していたのでは、監督が職務上必要な情報全てを得ることは出来ないでしょう。
日々の、ザックジャパンに対する専門家の分析記事や、サッカー協会の動きを伝えるニュースを、彼はどのようにして得ているのでしょうか? 専門の翻訳者がついているとも考えられますが、翻訳の作業時間を考えると、その時差が微妙に命取りになります。
日々動く状況の中でリアルタイムに情報を取捨選択して伝えていくことは、リーダーのポジションに居る者にとって重要なのです。
今回のニュースでは、事前練習が出来なかったのは、協会側、ザック監督側がおたがいに気を遣い過ぎたという事のようです。 このおたがいに気を遣い過ぎた空気を肌で感じることが出来るのは、両言語を理解する通訳しか居ないはずなのです。
矢野氏はプロサッカー選手から通訳になった方のようなので、大会運営の裏側にも十分通じている方だと思います。であれば、そうした空気もきっと感じ取っていたのでは? あるいは、空気を感じ取れるポジションに彼がいなかったのであれば、それはますます問題といえるでしょう。
また、二点目のフィールドでに通訳が入っていけなかったことについても、場合によっては通訳が責めを負うべきだと思います。
なぜなら「特定された通訳の追加的な同行は大会で規定することができる」(競技規則)を事前に確認できていれば、大会側に事前に働きかけることが出来たはずだからです。 フィールドに出るのは、通訳である矢野氏自分自身です。彼はこの規定について全くノータッチだったのでしょうか?
これらを、矢野氏の責任ではどうしようもない...と捉えることもできるかもしれません。 しかし「~付き通訳」と肩書が付いた時点で、付いている幹部社員の視点をいち早く身につけるよう通訳は努力すべきです。
そうでなければ、伝えるべき情報の取捨選択が出来ないからです。 取捨選択というと情報操作のようで語弊がありそうですが、そういうことでは有りません。 私たちは日本語環境で仕事をしていても、常に情報の取捨選択をして業務を進めているはずです。そういう意味での取捨選択です。 内容の有利不利ではなく、relevantであれば全て伝える。それが、~付き通訳の役目です。
私も社内幹部付通訳の経験があるので、よく分かりますが、幹部どおしのコミュニケーションの中、相手方の内輪の話を通訳して聞かせているとイヤな顔をされることも有ります。
ですが、その内容が自分の上司に重要な話であれば通訳します。その場で出来なければ、会議後にサマリーを伝えます。 あくまでも自分を通訳として使っている上司の利益になることを考えなければなりません。
ここまでするには、上司との信頼関係をしっかり結んでおくことが大切です。ですが、信頼関係が出来るのを待っていたのでは、伝えるべき情報にはいつまで経っても近づけません。最初から、自分で信頼されるようなアプローチをすればいいだけの話です。
~付き通訳という肩書が付いたら、まずは上司の立場を徹底的に研究する。上司の方針にしっかりと耳を傾ける。その上で、自分は「あなたの視点でrelevantな情報と感じるものを全て伝える努力をする。」と宣言して全力を尽くします。上司が日本の慣習とは明らかに違う態度や発言で、意図しない立場に立たされそうなときには、それをきちんと説明する。
コレだけのことをするのに、そんなに時間はかからないはずです。
あとはやるべき仕事(通訳業務)と宣言した事をきちんとやれば、必ず信頼は得られます。通訳であるあなたと上司は必ず最強のチームになります。(たとえウマの合わない上司でも。)
サッカー協会や、これまで歴代日本の監督について通訳をされて、ご苦労なさった方の中には、私がここに書いたような体験をされた方が必ずいるはずです。
選手の育成もそうですが、海外から監督を招聘することが常となっているのならば、通訳の育成ということにももっと重きを置くべきではないでしょうか? そうすれば、クラブチームの監督でも優秀な方をもっと沢山連れてきて、最終的に強いサムライジャパンを作ることにもつながるように思います。
ザック監督付の通訳の矢野氏、今後に期待したいと思います。
がんばれ!
余談ですが...
社内通訳はフリーランス会議通訳よりキャリアとして下に見られがちですが、実はそうではない事がこれからも分かると思います。大変な仕事なのです。また、通訳以外のこうした周辺業務を、フリーランス通訳は全てエージェント任せにして避けて通る傾向が有るように思います。
でも、たとえ一回限りのお客様でも、人間不思議なものでそういう姿勢は伝わるのです。通訳は「通訳業務」以上のことをしていなければ、信頼されません。
信頼が得られなければ、通訳が訳す通訳内容も信用してもらえなくなる、そういうものなのです。
ニュースの表題は「ザックJ思わぬ落とし穴 コミュニケーション不足で指示伝わらず」です。よくよく読んでみると二つの”コミュニケーション不足”があったようです。
まず、現地初戦に臨む前のサッカー協会とザッケローニ監督の間でのコミュニケーション不足。 次に、試合中第四審判に通訳を退けられ、フィールドで一人「指示を出した(?)」ことにるコミュニケーション不足。
前者は、コミュニケーション不足と言ってしまえばそうですが、何故そういう状況が起こったのか?を考えると、やはり通訳の力不足だと私は思います。
私は現在ザック監督の通訳である矢野氏のことをよく知っているわけではありませんから、彼の語学能力や、通訳スキルの有る無しについては言及することが出来ません。 それでもなお、力不足だと思います。
サッカーのことは全く詳しくないですが、監督付通訳ともなると、一般企業で言えば会社幹部、しかも役員クラス、いえ、チームを軸に考えれば社長付通訳のような存在でしょう。 そこで考えなければならないのは、社長付通訳がやるべき事は、果たして「通訳業務」だけか?という点です。
監督は英語もほとんどままならないと言うことですので、通訳が居なければ日常のことは全く情報シャットアウト状態で仕事をしているわけです。 通訳業務の必要になるときだけ通訳していたのでは、監督が職務上必要な情報全てを得ることは出来ないでしょう。
日々の、ザックジャパンに対する専門家の分析記事や、サッカー協会の動きを伝えるニュースを、彼はどのようにして得ているのでしょうか? 専門の翻訳者がついているとも考えられますが、翻訳の作業時間を考えると、その時差が微妙に命取りになります。
日々動く状況の中でリアルタイムに情報を取捨選択して伝えていくことは、リーダーのポジションに居る者にとって重要なのです。
今回のニュースでは、事前練習が出来なかったのは、協会側、ザック監督側がおたがいに気を遣い過ぎたという事のようです。 このおたがいに気を遣い過ぎた空気を肌で感じることが出来るのは、両言語を理解する通訳しか居ないはずなのです。
矢野氏はプロサッカー選手から通訳になった方のようなので、大会運営の裏側にも十分通じている方だと思います。であれば、そうした空気もきっと感じ取っていたのでは? あるいは、空気を感じ取れるポジションに彼がいなかったのであれば、それはますます問題といえるでしょう。
また、二点目のフィールドでに通訳が入っていけなかったことについても、場合によっては通訳が責めを負うべきだと思います。
なぜなら「特定された通訳の追加的な同行は大会で規定することができる」(競技規則)を事前に確認できていれば、大会側に事前に働きかけることが出来たはずだからです。 フィールドに出るのは、通訳である矢野氏自分自身です。彼はこの規定について全くノータッチだったのでしょうか?
これらを、矢野氏の責任ではどうしようもない...と捉えることもできるかもしれません。 しかし「~付き通訳」と肩書が付いた時点で、付いている幹部社員の視点をいち早く身につけるよう通訳は努力すべきです。
そうでなければ、伝えるべき情報の取捨選択が出来ないからです。 取捨選択というと情報操作のようで語弊がありそうですが、そういうことでは有りません。 私たちは日本語環境で仕事をしていても、常に情報の取捨選択をして業務を進めているはずです。そういう意味での取捨選択です。 内容の有利不利ではなく、relevantであれば全て伝える。それが、~付き通訳の役目です。
私も社内幹部付通訳の経験があるので、よく分かりますが、幹部どおしのコミュニケーションの中、相手方の内輪の話を通訳して聞かせているとイヤな顔をされることも有ります。
ですが、その内容が自分の上司に重要な話であれば通訳します。その場で出来なければ、会議後にサマリーを伝えます。 あくまでも自分を通訳として使っている上司の利益になることを考えなければなりません。
ここまでするには、上司との信頼関係をしっかり結んでおくことが大切です。ですが、信頼関係が出来るのを待っていたのでは、伝えるべき情報にはいつまで経っても近づけません。最初から、自分で信頼されるようなアプローチをすればいいだけの話です。
~付き通訳という肩書が付いたら、まずは上司の立場を徹底的に研究する。上司の方針にしっかりと耳を傾ける。その上で、自分は「あなたの視点でrelevantな情報と感じるものを全て伝える努力をする。」と宣言して全力を尽くします。上司が日本の慣習とは明らかに違う態度や発言で、意図しない立場に立たされそうなときには、それをきちんと説明する。
コレだけのことをするのに、そんなに時間はかからないはずです。
あとはやるべき仕事(通訳業務)と宣言した事をきちんとやれば、必ず信頼は得られます。通訳であるあなたと上司は必ず最強のチームになります。(たとえウマの合わない上司でも。)
サッカー協会や、これまで歴代日本の監督について通訳をされて、ご苦労なさった方の中には、私がここに書いたような体験をされた方が必ずいるはずです。
選手の育成もそうですが、海外から監督を招聘することが常となっているのならば、通訳の育成ということにももっと重きを置くべきではないでしょうか? そうすれば、クラブチームの監督でも優秀な方をもっと沢山連れてきて、最終的に強いサムライジャパンを作ることにもつながるように思います。
ザック監督付の通訳の矢野氏、今後に期待したいと思います。
がんばれ!
余談ですが...
社内通訳はフリーランス会議通訳よりキャリアとして下に見られがちですが、実はそうではない事がこれからも分かると思います。大変な仕事なのです。また、通訳以外のこうした周辺業務を、フリーランス通訳は全てエージェント任せにして避けて通る傾向が有るように思います。
でも、たとえ一回限りのお客様でも、人間不思議なものでそういう姿勢は伝わるのです。通訳は「通訳業務」以上のことをしていなければ、信頼されません。
信頼が得られなければ、通訳が訳す通訳内容も信用してもらえなくなる、そういうものなのです。