この本は、翻訳者にとっては古典と言ってもいいのではないでしょうか。
古典というには初版が1995年と新しいものの、その中に示されているのは日英翻訳者のための「地図」であり、歴史を超えても十分に成立する内容。まさに、古典と呼ぶにふさわしい本です。
事実、初版から15年を経た2010年5月には第十八刷が刊行されています。
翻訳には技術、文芸、産業、映像等分野はあるものの、そのどれをやるにしても、まずはここから入るべきだろうと感じることが網羅されています。つまり基本です。
-英語の語順を意識し文脈の意図を落とさない。
-所有格を主語と読み解き、日本語に流れを与える
-関係代名詞の処理の仕方
-代名詞を訳出しないこと
これらはほんの一部ですが、熟練の翻訳者であれば、意識なく出来てしまう技法でしょう。ちょっと英語をかじった人も、これだけ聞くと「へぇそうだろね、確かに。」程度には感心するかもしれません。
ですがそういう人こそ、幅広く適用できる基本的な公式が存在することに驚かされるはずです。主題毎に英語センテンスの複数の訳例を丁寧に読み解いて行き、ひとつひとつ「うんうん」と納得させられる展開になっています。
「そんなこと知ってる。」というレベルの人も、きっとポンッと膝を打ち「そういう公式だったのか!」と思わず言いたくなるに違いありません。
なんだか迷ってしまったら、ここに書いてあることに立ち戻れば、また何かが見えてくるような、そういうヒントが詰まった本です。
ただし、著者は言います。「この本に書かれていることは、あくまでも地図にすぎないということです。(中略)そもそもその地図を使って何処へ行きたいのか、それはそれぞれの翻訳者が実践すべきこと」だと。
よく言われますが言葉は生き物。前後のコンテクストが違えば、当然同じ英語センテンスでも訳出は変わります。もちろん、言葉にはさらにそれを超えた深みがある訳で、公式だけで全てを読み解こうとすることが、そもそも不可能だと言うことが、同時に示されています。
まさに「それぞれの翻訳者が実践すべきこと」が問われているわけです。だからこそ翻訳者個人の資質が訳文に出てしまうということが、往々にしてあるのでしょう。自戒の念を強くせざるを得ませんでした。
実はこのあたりのことが書かれているのは、「終章 何よりも大切なこと、三つ」と「マニュアルのむこうにあるもの-あとがきに代えて」のほんの20ページ足らずです。
本編の「地図」は翻訳者に必要な技能の基礎として重要なのですが、この最終の20ページがあってこそ、この本が生きていると言えます。
著者の翻訳という行為に対する愛情が切々と綴られています。愛情が深すぎて、深めても深めても自分の思うところに届かない...そういう語り口の優しいの文章です。でも、その優しさの中に、愛するからこそ「自分に厳しく追究したい」という著者の真摯な姿勢が強烈に読み取れました。
指南本の類に入る書籍で有りながら、終章からムード変わって一気に著者の思いに引き込まれ、自分の中の英語に対する思いとシンクロして...ヘンなんですけど泣いてしまいました、私(笑)良著です。
古典というには初版が1995年と新しいものの、その中に示されているのは日英翻訳者のための「地図」であり、歴史を超えても十分に成立する内容。まさに、古典と呼ぶにふさわしい本です。
事実、初版から15年を経た2010年5月には第十八刷が刊行されています。
翻訳には技術、文芸、産業、映像等分野はあるものの、そのどれをやるにしても、まずはここから入るべきだろうと感じることが網羅されています。つまり基本です。
-英語の語順を意識し文脈の意図を落とさない。
-所有格を主語と読み解き、日本語に流れを与える
-関係代名詞の処理の仕方
-代名詞を訳出しないこと
これらはほんの一部ですが、熟練の翻訳者であれば、意識なく出来てしまう技法でしょう。ちょっと英語をかじった人も、これだけ聞くと「へぇそうだろね、確かに。」程度には感心するかもしれません。
ですがそういう人こそ、幅広く適用できる基本的な公式が存在することに驚かされるはずです。主題毎に英語センテンスの複数の訳例を丁寧に読み解いて行き、ひとつひとつ「うんうん」と納得させられる展開になっています。
「そんなこと知ってる。」というレベルの人も、きっとポンッと膝を打ち「そういう公式だったのか!」と思わず言いたくなるに違いありません。
なんだか迷ってしまったら、ここに書いてあることに立ち戻れば、また何かが見えてくるような、そういうヒントが詰まった本です。
ただし、著者は言います。「この本に書かれていることは、あくまでも地図にすぎないということです。(中略)そもそもその地図を使って何処へ行きたいのか、それはそれぞれの翻訳者が実践すべきこと」だと。
よく言われますが言葉は生き物。前後のコンテクストが違えば、当然同じ英語センテンスでも訳出は変わります。もちろん、言葉にはさらにそれを超えた深みがある訳で、公式だけで全てを読み解こうとすることが、そもそも不可能だと言うことが、同時に示されています。
まさに「それぞれの翻訳者が実践すべきこと」が問われているわけです。だからこそ翻訳者個人の資質が訳文に出てしまうということが、往々にしてあるのでしょう。自戒の念を強くせざるを得ませんでした。
実はこのあたりのことが書かれているのは、「終章 何よりも大切なこと、三つ」と「マニュアルのむこうにあるもの-あとがきに代えて」のほんの20ページ足らずです。
本編の「地図」は翻訳者に必要な技能の基礎として重要なのですが、この最終の20ページがあってこそ、この本が生きていると言えます。
著者の翻訳という行為に対する愛情が切々と綴られています。愛情が深すぎて、深めても深めても自分の思うところに届かない...そういう語り口の優しいの文章です。でも、その優しさの中に、愛するからこそ「自分に厳しく追究したい」という著者の真摯な姿勢が強烈に読み取れました。
指南本の類に入る書籍で有りながら、終章からムード変わって一気に著者の思いに引き込まれ、自分の中の英語に対する思いとシンクロして...ヘンなんですけど泣いてしまいました、私(笑)良著です。