2012年3月10日

11. 緊張感のコントロール

よく翻訳を専門にしている方に「通訳なんてあんなに緊張する作業私にはとても無理です。」と、言われます。それに対して「私ものすごいアガリ症なんです。」と切り返しても全く信じてもらえないことが殆どです。

私は本当にアガリ症です…と繰返して言うと余計信じてもらえないかも知れません。でも、通訳に限らず、小さい頃から本番に弱いタイプ。できる準備をきちんとこなしていなければ、その事が心理的な負担となって緊張し、どんなに準備/勉強していても逆に気負いすぎて緊張してしまうことはしょっちゅうです。

通訳学校に通っているころからそのアガリ症は災いしていました。先生に当てられると「自分はできない…。」という気持ちで頭が真っ白になります。(落ちこぼれ時期が長かったので…)そして十分に予習していったときでさえ、上手くやろうとしすぎて結局カミカミになり、準備したことの半分の成果も出せないのはいつものことでした。

そんな調子ですからはじめて通訳として仕事をはじめたときの様子は想像に難くないと思います。もうカチンコチンです。メモをとってない左手がブルブル震えるのを見てしまい、ペンをもつ右手まで震えはじめメモが取れなくなってしまったこともありました。今思い出すだけでもアガってしまいそうです。そのくらいアガリ症です。

ではそれをどうやって克服すればよいのでしょうか?最近Twitterでこんな内容の発言を目にしました。(正確な引用ではありません。)

人前で緊張しないのは、若い頃に演劇をやったことが役に立っている。 通訳コースの最初のレッスンに、寸劇が入っているのを見て大いに納得した。
なるほどな…と思う一方、これだけだと「人前で緊張しなくなれば通訳の場面でも緊張しなくなる。」と勘違いされないだろうか?と思いました。

アガリ症の一番の原因は、自分あるいは(および)周囲の人の意識が「自分自身」に集中するからです。演劇などを通じて人前で緊張しなくなることの根拠は「役柄を通じて自分を消す」ことに有るのかもしれません。そういう意味では「通訳という役柄」を演じると思って現場に立つ事ができるようになれば大丈夫なのでしょうか…?あるいは、単なる慣れの問題と捉えているのかも知れません。

私の場合は「通訳の役柄を演じている自分」を意識してしまい、駄目な気がします。自分の日英両方での言語能力に対して少しでも「自信のない通訳の自分」が残っていれば、それが負い目となりたちまち緊張マックスでしょう。そして「何が来ても完璧な通訳ができる!」と心の底から信じている人でない限り、その「負い目」は消えません。

でも、アガリ症の人ほど(よくも悪くも)自分に正直な人ですから「やればできる!」などというおまじないにはかかりにくいのです。慣れやおまじないの効かない人には、ちょっと効果のある方法とは言えそうにありません。

結局、技術を最優先課題として磨くことこそが通訳においての緊張克服の”有るべき姿”です。「自信をもってできる技術力」を求める姿勢がいつも必要です。「緊張感の克服」というテーマについて語る時それに触れないということは、私には通訳が技術職であることを否定しているように感じられて、何とも釈然としないのです。

あやまってここを単なる慣れの問題…と捉えてしまえば、緊張してない癖にできもしないサイアクな通訳になりかねません。あるいは、できないことに心の痛みを感じない鈍感な状態すらできあがってしまいます。残念なことに、かなり年配のそういう通訳さんと一緒になったことがあります。自分ができると思い込んでいるため、オーディエンスの不満にも気が回らない…そんな感じでした。

ただ、通訳の上手さというのも十人十色。上手い通訳は唯一つではありません。だからこそ技術向上が常に必要だともいえるでしょう。そういう意味で、完璧にはできないことの緊張感はいつも持っていたいと思っています。

でも、それではいつも「完璧ではない自分」が意識されてしまう…その通りです。ただし、それが訳出や訳出態度(デリバリー/パフォーマンス)に影響しない範囲にコントロールすることは可能です。それは伝えようとする責任感です。

震災からちょうど一年が経とうとしています。あの時、情報がない中必死で情報を届けようとした人が沢山いました。一番記憶に残っているのは「NHKを無断でUstream配信した広島県の男子中学生 」ではなかったでしょうか。伝えなければ…という思いの強さが勇気につながったでしょう。

私自身も1年前にこんな記事を書いています。2011年3月29日 4. 欲しいのは「伝えようとする熱意」

通訳は技術職であり、同時にサービス業です。技術があってはじめて成立つ職業です。オーディエンスに伝えたい、という気持ちを強く持つとき、意識は果てしなく自分から離れます。私はこうして「完璧にはできないことの緊張感」から解放され、意識を「伝えること」に集中している気がします。

それでも、私のパフォーマンスをいつも下支えしているのは「自分の技術力」だと言うことを、どんなに年を取っても忘れずにいたいと思います。「自分の技術力」…うーん、まだまだ勉強だぁ~!