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2011年7月11日

7. 通訳者の職業倫理

今日こんな記事を見つけました。


憂楽帳:振り子の国

 今春、米国務省の招聘(しょうへい)プログラムに参加した際、ワシントンDCで中国の一行と一緒に講義を受ける機会があった。講師はジョージタウン大のムハレル・レオン博士。「米国の政治システム」のテーマで随所にQ&Aを交え、自由闊達(かったつ)な雰囲気の中で進んだ。

 民主主義の基本といった内容だが、軽快な語り口で飽きさせない。米国旗を燃やした男が無罪となった判例を基に「個人主義」や「表現の自由」を考えさせたかと思えば、メディアの重要性を論じたり。だが、中国の言論弾圧に及んだ途端、雰囲気は一変した。中国の通訳者が以降、一切の同時通訳を放棄したからだ。

 不穏な空気の中、博士は語り続けた。「寛容性が国を強くする。それは異なる意見にも耳を傾けるということだ」。通訳は訳すのを拒み続けた末、事態がのみ込めない自国の3人を引き連れて、時間きっかりに教室を後にした。

 滞在中、アジア情勢の専門家から聞いた「二つの中国」という言葉を思い出した。地域のリーダーとしてプラスの役割を担うのか、不安定要素となるのか。振り子のように揺れていて、まだ先行きは読めない。【鈴木美穂】

毎日新聞 2011年7月4日 西部夕刊


通訳者の独断で通訳を中断し、出席者を連れて会議場を出てしまったとは…

通訳倫理という言葉がパッと頭に浮かびました。「通訳は中立の立場であって、通訳時に私見を差し挟んではならない。」ということです。この中国人の通訳者は誰の指示もないのに通訳することを独断で止めてしまいました。明らかに通訳倫理に違反すると思いますが、この通訳者はお咎めを受けないのでしょうか?

もちろん、愛国心から自国の言論弾圧という行為を批難されたから…ということはあきらかです。仮に、通訳者が中国人でなければ同時通訳は引続き進行したでしょう。例えば今回の原発における政府の失策について日本が批判されたからと言って、日本人通訳者の場合拒否するでしょうか?それは絶対にあってはならないことです。しかし、もしかしたら、こういったことも想定して中国側は自分たちで中英通訳者を用意したのかも知れません。

そういえば、昨年参加したアジア大会での北朝鮮がそうでした。朝鮮半島で主権を握ると主張する北朝鮮の立場を中国は擁護していたためかNorth KoreaではなくDPRK(Democratic People's of Reublic of Korea)と呼ぶよう全通訳者は事務局から指定されていました。

さらに、他国はすべて大会委員会が用意した通訳が全記者会見を担当しましたが、北朝鮮が出場していた女子サッカーの試合後の記者会見では、北朝鮮が連れてきた女性通訳者が担当していました。(もっとも、この女性通訳者の通訳能力はかなり残念なものだったのですが…)

こんなこともありました。北朝鮮が勝つと予想されていなかったのですが、たまたま北朝鮮の選手が勝ち、韓国人選手のためにスタンバイしていた韓国人韓英通訳者に事務局が協力を要請したところ、なんと拒否した…ということもあったそうです。この件については、韓国語と北朝鮮で話されている言葉には語彙レベルで随分と違いがあるようで、簡単に通訳ができるものではないという事情もあったそうです。しかし、結局事務局の依頼を受けて協力をした通訳者もいたらしい、ということを後から伝え聞きました。

私が意識している通訳倫理はやはり「守秘義務の遵守」です。そして「正確な通訳」でしょうか。守秘義務については当たり前すぎて今更述べるまでもありません。もちろん「正確な通訳」(私はメッセージの正確性をより重視)も当然ですが…思わぬところで「私見を差し挟む」というケースに出くわしたことが何度もあります。

これは通訳学校経験がなく社内で通訳としてたたき上げられ、社内事情や案件の背景をよく知る駆出しの社内通訳さんにたまに見られます。会社側に英語のわかる日本人が少ない場合では社員さんも通訳に頼りきっており、それをヨシとしている場合もあるようで、フリーランスとして外部から入るとかなり面食らうことになります。

いずれにしても、これが通訳倫理だとハッキリと決められているものは日本にはまだ存在していません。守秘義務、中立性、正確性、一般倫理に反しないこと(例、明らかに犯罪に荷担する通訳をしない等)は、大前提の事だと考えていましたが、お国が違えば事情も変わってくるようです。

ちなみに通訳の資格制度がかなり確立しているオーストラリアでは、政府設立の翻訳者・通訳者認定機関NAATIの試験の最後の口頭試問に通訳倫理規定(下記項目)をカバーする問題が出るようです。それまでの筆記・実技試験でどれだけ好成績を収めても、この試験にパスしないと認定されないようです。つまり、そのくらい重要なものだということです。

1. Professional Conduct プロとしての責任ある行動 
2. Confidentiality 守秘義務の順守
3. Competence 十分な通訳能力を有していること
4. Impartiality 通訳における中立を守れること
5. Accuracy 正確な訳出をすること
6. Professional Development 通訳技術向上のため精進すること
7. Professional Solidarity 通訳者同士が協力すること

ただし、会議通訳、司法通訳、医療通訳、コミュニティー通訳によって、通訳者が守るべき職業倫理は微妙に変わってきます。司法通訳、医療通訳については最近クローズアップされつつあり、通訳倫理や通訳規定の枠組みを決める活動があるようなので、動向を注意してみたいところです。