2011年1月22日

企業における英語公用語化は必要か?

先日読んだ鳥飼先生の「英語公用語は何が問題か」に大変共感しました。以前のブログに書いていたこと(2010/6/28)を、コチラに一部加筆修正して掲載します。



楽天の三木谷社長が社内の英語公用化 を発表したのに続き、ユニクロも社内公用語化の方針 をこの程発表しました。

三木谷社長によれば「社会のトップ層が英語をしゃべれないのは世界中でたぶん日本だけですよ。」正直「それは無いでしょう…」と苦笑してしまいました。「会社企業のトップ層が…」というのならまだ理解できます。でも「社会のトップ層が…」は、どれだけの社会のトップ層を相手にされたのかちょっと首をかしげたくなってしまいました。数々の国際会議で今も通訳がブース内で格闘しているのは何故ですか?と問いたい気分です。

そもそも、日本人が世界の舞台に躍り出るようになったのはなぜでしょう?

日本のものつくりが世界に誇れる品質であり、それを伝えたいと情熱を燃やした人たちが居たからに他なりません。もし日本の企業が、グローバル化の波の中で停滞した現状を打破して世界の舞台に躍り出たいと思うなら、その武器になるアイデアや技術と、それらを広めたいという情熱を持つことが一番の近道ではないでしょうか?英語をしゃべれることが先決だ、というのは順序が間違っています。

英語はあくまでツールであり、目的ではありません。ツールを使うためには、使わなければならない環境に身を置けばいいのです。しかし、その答えは絶対に会社の英語公用化ではありません。理由は簡単です。ツールを使うことの目的意識が「英語が公用語で使えなければクビになる?」では、モチベーションがネガティブ過ぎて、自発的学習にできる可能性がきわめて低いからです。

クビにならないために恐々としながら英語習得を強いられる。全くのプレッシャーです。しかも、英語習得をしたところで、自分の担当ビジネスが英語をそれほど駆使しないレベルの職場であればどうでしょう?習得したところで仕事の役に立つとも分からないものに、どれだけ社員は情熱を燃やせるのか?だいたい日本人同志が「あー、うー」言いながら英語で会議を進めて、どれだけ効率が上がるのか?疑問は尽きません。

楽天、ユニクロにしても当面英語を必要とする部署はかなり限られているはずです。実際に今現在、英語を使わなくても両者とも業績好調なわけですから。使う予定のないツールを使いこなせるようになれと言われても、現実味が全くなく、そこから自発性を生むことは非常に難しいのです。

今までも莫大な予算を社員の英語教育に投じてきた日本企業で、成果がなぜ上がらないのかを真面目に検証した企業はどれだけあるのでしょうか。実際あまりお目にかかったことがないです、そうした検証結果が表に出ない理由は「結局のところ英語使う必要性が無いから高価が評価できない...」ということでしょうか。あるいは「あまり効果が上がっていない。」という結果では格好がつかないため、表に出ていないだけかもしれませんが…。

例えば社長自らが具体的な一つのプロジェクト達成を目標に掲げる。やる気のある社員、プロジェクト達成能力のある社員であれば、達成するために必要なツール、思考方法等を自分たちで模索するはずです。その中でツールとして必要であれば、英語を習得していく事も選択肢の1つです。また、即効性を重視して通訳翻訳を使えばいいという発想も当然採用されるべきでしょう。

言語学習のモチベーションは、学生、ビジネスマン、仕事を持たない人、その人の属性にかかわらず「直接伝えたい、直接理解したい」という気持ちです。その”気持ち”無きままに「しゃべれなければグローバルではない。」と言わんばかりの社内英語公用語化の成果には、全く期待できないと断言します。

世界が見たいのは「英語をしゃべる日本人」ではありません。
世界が見たいのは「情熱をもって、自分のアイデアで未来を語る日本人」です。

社員に英語をしゃべらせたければ、世界に伝えたくなるような技術やアイデアを社内でどんどん作りだすことです。そして、実際にそれらを世界に伝える”場”を会社側が演出すれば、社員は大いに目的意識をもって英語コミュニケーション能力に磨きをかけることでしょう。

今日の「NHK大河ドラマ龍馬伝」で、勝海舟が言いました。
「今まで海は日本と世界を隔ててきた。これからは海が日本と世界をつなぐのだ。」

”海”を英語と言い換えることが十分可能だと思います。では、英語が日本と世界をつなぐのか?

どうか勝海舟が語りかけた若者たちを思い出して下さい。彼らは、日本を愛し、日本人である事に誇りをもち、日本を伝えたいと志をもった若者たちでした。伝えたいメッセージを持った志高い若者達だったからこそ、海が日本と世界をつなぎ、世界とつながる事に大きな意味があるのです。

つまり、軍艦を作って海を渡る事ができたところで、そこに志がなければ無意味だったでしょう。また、志が無ければそもそも海を渡ることすら考えることも無かったはずです。

しかし、彼らには志がありました。だからこそ、海を知り、船を操る技術を必死で学んだのです。伝えるべき思い、愛する日本という国があってこそ「海が日本と世界をつなぐのだ。」なのです。

やっぱりこれが正しい順番だと私には思えます。

最後に私の尊敬する上司のエピソードです。

私が社内通訳時代についた上司は、当時のその上司の役職の中では英語の得意な方ではありませんでした。しかし、プロジェクトは広く海外の拠点メンバーと話をしながら進めて行かなければならず、多くの会議は英語で進行。もちろん通訳が付きました。実は、彼がしゃべる日本語も、最初のうちはかなり難解でした。私だけでなく、通訳仲間うちで彼の日本語の分かりにくさは結構有名だったのです。

そんな上司でしたが、プロジェクト期間を通して、彼が海外から届くメールの翻訳を私に依頼する事は非常に稀で、すべて自分で目を通し返信されていました。ごくたまに難しいニュアンスを伝えたいという時には、表現方法を尋ねられたりもしましたが、私が書いたものを目も通さずに丸投げには絶対にしませんでした。そうこうするうちに、なぜか彼の日本語発言は不思議とずいぶんわかりやすく改善したのです。もちろん僭越ながら、英語もずいぶん上達されたと思います。

そして新製品を引っ提げて、世界各地の広報活動に出ることになります。プロジェクトマネージャーとして彼が各地で行ったプレゼンはすべて英語、原稿も通訳と一緒になって必死で考えました。そして何度となくプレゼンの練習…。私がご一緒した会場での事でしたが、前日までの練習まではおぼつかなかったところを、次の日の本番では完璧に決めてきたのです。

製品の魅力と彼の製品に対する情熱を感じさせるプレゼンが、商品への高い評価をもたらしました。 日本で素晴らしい商品を作った社員たち、そして「伝えたい」と願った上司の情熱の勝利だったと思います。