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2010年12月8日

第16回広州アジア大会 - New Style?


大会も残すところ4日、新体操団体の会見を担当することになりました。団体競技と言えど前日からの個人の演技が評価の対象になっていたため、常に2-3位につけていた日本にも十分金メダルのチャンスがり、日英訳も出動となりました。結果は日本は惜しくも銅メダル。団体競技は金メダリストだけの記者会見になるため、私の出番は有りませんでした。
そんな中、ちょっと変わった方法で逐次通訳をしているロシア語通訳に出会いました。

(観客席からは小さな彼女しか見えませんたが
遠くから見ていても迫力ある演技でした。
スクリーンは日本の山口留奈選手)

逐次通訳と言えば、一般的に通訳のスタイルは、逐次通訳、同時通訳(+ウィスパリング)に大きく分けられます。アジア大会記者会見では、すべて逐次通訳でのリレー通訳対応となりました。逐次通訳はスピーカーが喋った後にポーズをとってもらい、その間に通訳を挟むというものです。同時通訳ほど難しくないと見られれがちですが、私は個人的には逐次通訳を上手くできることの方が実は難しい、と思っています。

金メダルを取ったのはカザフスタン。という事で中国語、ロシア語通訳が会見の準備に臨みます。団体競技だったからでしょうか、これまでの会場のセットアップと少し違い、通訳は二人ともが記者会見中央席横のテーブルに陣取りました。二人ともが準備をそれぞれ始めているのですが、ロシア語通訳の彼の様子が少し違います。

(監督の表情がかわいい娘たちを
気に掛けるお母さんのようでした。)

中国語の通訳は通常通りメモの用意、マイクの確認…ところが、ロシア語通訳は手元で何やら小さな機器を操作している様子で、イヤホンを装着して澄ました顔しています。

やがて、会見が始まって驚いたのはロシア語通訳が全くメモを取らないのです!
最初はどうやってるんだろう?と不思議で仕方がなかったのですが、よくよく観察していると、会見ホストや、選手、中国語通訳が話し始めた時と、話し終わった時に手元で何か操作を行っています。なるほど…一度録音した音声を耳元で再生しながら、基本的に同時通訳をしているようでした。


(自転車競技会場のロシア語通訳 Timur
首からイヤホンを下げているのが見える?
後ろはアレンジする会見軒並みキャンセルの
最強不運なコーディネータ、笑 Simon)

今までこうしたやり方をしていた通訳に出会ったことが無いので、帰りのバスの中で聞いてみました。おちゃめな彼で、自慢そうにいろいろ話してくれました。
やはり手元で操作していたのはICレコーダーとのこと。なるほど…これなら長いスピーチも取りこぼしなく訳出できる訳です。 一方で彼自身、このやり方についてはポジティブ、ネガティブポイントそれぞれをきちんと検証、認識していて、場に即した場合のみこの方法を取り入れるようにしているそうです。
ちなみに、彼が指摘したポジティブ、ネガティブポイントは以下の通り。

ポジティブ>
・ スピーカー発言を録音時、再生時の二回聞くことが出来る。
・ 時系列でスピーカーが触れたトピックを必ず全て網羅できる。

ネガティブ>
・ スピーカーの話す内容に、無駄な繰り返しが多い場合、同じように通訳せざるを得ない。
・ 会議によっては機密規定が有るために、ICレコーダーへの録音が許可されない。

このやり方を採用している他の通訳者が居るのか尋ねたところ「勧めてるんだけど、あんまりいないね。」と言っていました。
肝心な彼のパフォーマンスですが、とても落ち着いていてよかったと感じました。ただし、これには前提条件として、彼の通訳技術が高いという事があると思うのです。

私がこの方法を採用するかどうかですが、結論は今のところはNoです。
この方法の利点の一点目にあるように、二回スピーカーの発言を聞くことが出来る事は、通訳にとっては心強いと言えなくもありません。同じスピーチを同時通訳で訳出するのと同程度精度(あるいはそれ以上?)を出すことは可能です。しかし、逐次通訳の面白味というか醍醐味は半減してしまいます。

事前に用意されたスピーチなどのようなものは別にして、考えながら話している場合は話し言葉には揺れが有ります。重要であることを伝えるため、必要以上に同じフレーズを繰り返したり、突然ロジックをさかのぼって補足したり、という事はよくあることなのです。
これは普通に聞いていると気が付きにくいですが、録音したものを書き起こすとすぐに気が付きます。通訳訓練を受けたことのある人であれば、日英の練習で特に日本語スクリプトを手にしてうんざりした経験のある人は多いのではないでしょうか。

そうした、揺れを補正しているのがコンテクストであり、コンテクストに即してメインメッセージを分かりやすく訳出することが逐次通訳の面白さだと考えています。もちろん、同時通訳でも同じことをしていますが、逐次通訳では時間差が有る分、もっと大胆に「メッセージを表現する。」事ができると思うのです。
つまり、通訳の腕の見せ所といえます。

ただし、面白さ半減、腕の見せ所…という事は、それだけ逐次通訳が「難しい」ということです。
もうこれ以上私は上手くなれないわ!と思ったら、この方法採用してみようかな(笑)ロシア語通訳の彼は「ICレコーダーは日本のPanasonic社のがベストだよ。」と最後までお茶目でした。

(新体操の選手の殆どが10代で
私の娘とほぼ同年代です。
嬉しさ全開のこの表情!)

余談ですが、この会見は中国メディアしか来ていませんでしたが、非常にいい会見でした。
選手一人一人と、監督にもコメントを求め、質問内容も選手の苦労や、これからの目標など。選手も金メダルの喜びにとても饒舌でした。何よりも若い彼女たちの初々しくかわいらしいこと!喜びもいっぱいに表現していました。今大会中見ていてなんだか本当にチームワークを感じ、一番心がジーンとする会見だったように思います。