そんな投稿に、ML内のメンバーから温かい投稿が寄せられるのを見るのは大変励みになることでした。同時に、返信投稿を見ていてここ3-4年の間に大きな変化が起きている事をはっきりと読み取る事ができました。つまり、直クライアントにアクセスする手段を持つことがフリーランスビジネスの一貫として必須であるとの認識が格段に強化され広まってきていることが分かったのです。
1.数年前までの翻訳者の意識
IJET23を開催したのは2012年の事でしたが、その前年2011年秋におこなわれた大阪プレイベントで、翻訳者はどのようにして仕事を受けているのか?どう自分を差別化しているのか?のようなテーマでパネルディスカッションが行なわれました。私の記憶では、当時は「エージェントを通じて仕事を取ってくるのが基本モデル」というのが多くの方の共通見解で有ったように思います。
そのためか、「直クライアントの獲得についての提言」が明確になされたのにもかかわらず、お一人が「翻訳エージェントになるつもりはない。」という趣旨の発言をされ、各パネリストの発言も付き合いのある複数エージェントとのつきあい方を話されたに終始していました。
2.現在の翻訳者の意識
ところが、今回のMLでの反応はおよそ下記のような内容です。
- 翻訳者やその他の集まりに顔を出し、自分を知ってもらい個人的なつながりをもつ。
- 自分の差別化要素をアピールできる情報共有サイトに登録する。
3.現状認識を裏付けるデータ
そんな中、タイミングよく日本翻訳者連盟のJTFジャーナル2014年7/8月号*が発行されており、その中にも大変興味深い数字が提示されていました。(http://journal.jtf.jp/files/user/pdf/JTFjournal272_2014jul.pdf)
2014年JTF定時社員総会基調講演「日本翻訳産業の実態〜でJTF理事として登壇された井口耕二さんの講演内容として紹介されている下記の文章です。
フリーランス翻訳者をどう定義した上でのアンケートであったかまで確認していませんが、多くの「翻訳者」が直接クライアントを持って稼働していることが分かります。受注方法については「翻訳会社から」 が 86.7%であるのに対し、「ソースクラ イアントから直接」が 38.2%と示され ている(複数回答可で重複あり)。ソー スクライアントとの直接取引のきっかけ については、「知人の紹介」が 48%、「以 前からの知り合い」が 43%と圧倒的な 数値を示している。「営業」が 12.7%を 示していることについては、翻訳会社の 営業力の強みが感じられるとの指摘があった。「翻訳マッチングサイト」と「SNS 経由」がそれぞれ 8.6%を示しているこ とについては、インターネット普及の効 果かが見られるとしながらも、意外に低い 数値てであるという印象をもったとの発言 があった。
4.通訳者の意識とこれからのビジネスモデル
一方、通訳業界はまだまだ日本では「エージェント対応モデル」でビジネスをしている通訳者がほとんどです。昨今レート崩壊が叫ばれる翻訳業界に比べると、レートを初め通訳環境を保護する観点から通訳エージェントがこれまで日本市場で果たしてきた功績が大きいため、通訳者とエージェントが強いつながりをもっている事が理由と考えられます。
しかし同時に、海外のエージェントを通じた仕事、国内・海外のお客様からの直接アプローチを受ける機会がじわりじわりと増えているのを身を持ってここ数年感じています。そういう状況の中で「生き残るエージェントはどこなのか?」さらに、フリーランスとして「エージェント対応モデルだけで生き残れるのか?」通訳者も真剣に考えるべき時期に来ているように感じました。
5.フリーランスは自営業
そもそもフリーランス(自営業)という職業を考える時、そのお客様が実は全て仲介業者(エージェント)であるということが少しイレギュラーであったと考えるべきかもしれません。よく言われることですが、フリーランスとは”技術職能を持つ人間であると同時にビジネス活動の主体である。”ということを、今一度肝に銘じる必要が今後よりいっそう出てきそうです。
*JTFジャーナル
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今号はこの他にも翻訳レートについての考察などとても興味深い内容になっています。