2014年2月28日

「伝える極意」 長井鞠子 著

まずはじめに長井鞠子さん、NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀」にご出演のご案内です。
NHK総合テレビ
毎週月曜日 午後10時~10時48分 今と未来を描くドキュメンタリー
第225回 2014年3月3日(月)
言葉を超えて、人をつなぐ
会議通訳者・長井鞠子
http://www.nhk.or.jp/professional/schedule/index.html#20140303

東京出張からの帰りには品川駅を利用することが多いのですが、品川駅の新幹線改札を抜けるとホームに降りる前のスペースに新刊や雑誌をメインに扱う本屋が有ります。よくないな…と思いつつも、最近はハウツーものや情報収集のための読書に飽きてしまい軽い小説をかばんに入れていることが多いのですが、今読んでいるものがなかなか読み進まないので珍しく立ち寄ってみました。

出版予定であることは知っていたのですが、そこで見つけたのが会議通訳者の長井鞠子さんの「伝える極意」。「ぜひ読みたい!」というほどの期待感は無かったのですが(すみません…)偶然の出会いに何か「引き」を感じて購入。帰りの新幹線で一気に読みきってしまいました。

これまで、大学で教鞭を取る元通訳者、教師兼業通訳者による、学術的な観点から書かれた本や、トレーニング目的で書かれた本はずいぶんあったと思うのですが、考えてみれば実務通訳者が実務経験から自分のキャリアを俯瞰しながら「通訳」について語った本は大変珍しいのではないかと思います。

メッセージを発信することの意味、通訳がそれをどう捉えて訳出という作業に結びつけていくのかを、ご自身のキャリア内での経験を元に明快に綴られています。さすが半世紀以上の優秀な通訳としてのキャリアを持つ長井さんだけあり、登場する人物や会議名は錚錚たるメンバー。こうしたメンバーを個別に取り上げ、通訳の視点でとらえた「メッセージを伝えること。」を、スピーカー個人の性格や大衆へ与えた印象を分析しながら、丁寧に解説されています。

(以前ご紹介した原不二子先生の「通訳という仕事」がそれに近いと思いますが、原先生の本は「通訳」というよりもう少しご自身のキャリアに絞った形で通訳という「仕事」をお書きになったものでした。)

印象的だったのは、ご自身では努力するのは性に合わない…的なことを書かれていた事でした。お仕事をされる中で多くのことを楽しみながらやっているため、それを苦労とか努力とか思うヒマもなかった、というような爽やかな語り口。

ご家庭がありお二人のお子さんを持たれながらも、70歳になる現在まで最前線を走っていらっしゃる彼女。「性に合わない」と言い切れる強さは恐らくもともと彼女に備わっていたものかもしれませんが、やはりそれでも「爽やかに言ってのけること」が今おできになるには、彼女がご自身の通訳に対する情熱の火を灯し続けることができたからだろうな…と思うのです。

今の私が勇気を得た部分を引用します。仕事を持つお母様をお持ちの長井先生とは違い、私の母は専業主婦だったので、自分の感覚が「正しい」のかいつも迷っています。これを読んでもまだ今の自分の仕事のやり方が「私や私の子ども達にとって正しい。」ことなのかどうかはわかりません。でも「仕事か家庭か」ではなく「仕事も家庭も」という考え方は欲張りではない、とまた一つ自分に言い聞かせることのできる糧となりました。

第三章 通訳者の生活とその技術
p. 83〜
母が家にいることは、すごくうれしい。でも、だからといって母がいない日にさみしい思いをしているわけではありませんでした。それは、私にとっての「普通」の状態。「うれしい」の逆は「さみしい」ではなく、「普通」ということです。

こういった自分自身の体験から自分自身が母親となってからも「母親が仕事を持って、家にいない時間が多くても、子どもがさみしい思いをするわけではない」という確信が私にはありました。

広島通訳 Tea Salon を開催します

例年、3月の決算締め月に向けて皆さん予算を使い切ろうとなさるのか、2月中旬から通訳業界は多忙を極めます。そんな中、 なんとかかんとか確定申告を終わらせて、週末にほっと一息ついているところです。 このブログのオーナーである私は、今でこそ東京住まいですが、出身の広島には頻繁に帰省して...