2010年5月18日
通訳ミッションとは
先日、ネットの知り合いで医薬系の会社にお勤めの方のブログで興味深い内容を見つけました。クライアントから見た外部通訳への期待値を、非常に的確にまとめられて有りました。
お客様先でお仕事させて頂く際に、常に「お客様の求めているもの」は意識していますが、実際にクライアントの立場でクライアントの言葉でそれを表現されているのを目にして、身が引き締まる思いです。でも、同時に通訳の事情を分かった上でこうした事の言えるお客様がいる事を心強く思いますっ!
以下にご紹介します。(ご本人には引用のご承諾頂いてます。)
***引用開始
プロの通訳者で生きていくのって
つくづく純粋な通訳力だけじゃないなあと感心します。
経験ある人は素晴らしい・・
- 初めて聞く話でも把握できる理解力
- アウトプットに繋げる力
- 堂々とふるまう姿勢
- 最初から最後まで安定したデリバリー
- たとえ自信がなくてもうろたえない根性
- 積極的にコミュニケーションを成立させようとする意識の高さ
- 控えめだがいろいろ気を遣える経験力
- ビジネスを知ってると思わせる大人な振る舞い
クライアントからしたら,こういうの信用力あるなーと感じるし
お客さんの要求ってどんどん高くなっていく気がする。
この通訳者は,果たして自分の業界の仕事の話をどれほど理解してくれているのか?
ってポイントも含め,参加者はけっこう厳しい目でみてると思います。
(言わないけど)
でも,プロの通訳者さんにびしっと訳出してもらうと格段に理解が深まるので
やっぱりいてもらってよかったとみんな思います。
でも,レベル高い通訳者さんでも
100パーセント完璧の通訳か?というと
(内容に精通した内部の人間からみたら)そうじゃなかったりする。
でもそれでいいと思う。
細かいところ気にしてても仕方ないし
それより大筋を堂々と訳出してもらった方が安心できる。
もちろんベースとなる背景知識は必須だけど。
***引用終了
この引用がすべてのクライアントの求める所だと理解するのはちょっと違うかもしれません。でも、少なくとも太字の部分については広く多くのお客様に当てはまると思います。
私はすべては「コミュニケーションを成立させようとする意識の高さ」に集約されると思っています。会議の目的を知り、お客様の臨む落としどころを知ったうえで会議に臨むという視点を忘れてはならないと思います。
お客様によって会議の目的は様々です。何らかの落としどころを見出すような駆け引きある会議では、交渉力を通訳と言えど期待されます。ですから”大筋を堂々と出す”という事は議論の交通整理を図る意味でも重要です。(詳細は出さなくていいという意味ではありません。)しかし、技術的な会議の場合には”大筋を出そう”だけでは前に進めないのです。
でも、だからこそ「コミュニケーションを成立させようとする意識の高さ」が重要になってくるわけです。
多くのお仕事では事前のブリーフィング…通訳との意識合わせの場、は持たれません。(ブリーフィングが必要な場合には特別に料金を頂戴するのが慣例となっているためかもしれません…)本当は内容の難易に拘わらず、こうした意識合わせの作業があることが理想的です。
用語/訳語の確認はそれ以前の話だと思うべきでしょう。お客様の事情で事前の確認が難しいならば、お客様先での実際の業務を通じて、そのヒントを得ることは十分可能です。ヒントをベースにこうかな…と思ったことは、可能であればその場でお客様に積極的に確認するべきです(場の空気を読みながら…)。
最近読んだ、松本道弘氏の「同時通訳」に次のような事が書かれており、大変疑問を感じました。詳細は失念したのですが、だいたい以下のような内容です。
あるノンネイティブの学者から、公演通訳の依頼を直接受けた松本氏。しかし、そのクライアントは大手エージェントにまず依頼をかけたところ断られたそうです。理由は、彼がノンネイティブでかなりなまりのキツイ英語をしゃべる事、さらに公演の原稿を提出しない事でした。
松本氏はそのクライアントとは以前から個人的に知り合いで、困っているならと快く引き受けたそうです。松本氏にももちろん原稿は用意されませんでしたが、クライアント本人と講演内容についての意識合わせを数時間行い、そのうちに訛りにも慣れ、講演内容への理解も十分深まり、通訳は成功したそうです。
彼はこれを後に振り返って、(手続きを重んずるエージェントを通さず)通訳倫理にもとる事をしたのでは?…と忸怩たる思いがした、というような事を書かれていました。なぜなら業界では、スクリプトを事前に頂くのが(一方的な)道理となっているからです。
しかし、私は松本氏の行動の何が間違っているのか分かりません。大手エージェントはその時、明らかに「コミュニケーションを成立させようという高い意識」を欠いていたように思います。
正直この文章を読んだときにはショックでした。しかし、先月参加したIJET(日英英日翻訳者協会国際会議)で、日本でも代表的な通訳者の井上久美先生が「通訳者は通役者」と題して話された内容は、まさにこの意識を軸にしたものでした。
自信が無くてもうろたえない根性…通訳技術を高める努力は大前提。その上で、自信がなければうろたえたくもなるのですが「コミュニケーションを成立させよう」という意識が先に立てば、うろたえる暇はないはずです。場の雰囲気を見ながら毅然とお客様に確認を取りながら進めていくしかないのです。
通訳者が、分からない、聞き取れない、理解できないい…とお客様に言うのは技術職として大変恥ずかしい事です。しかし、会議の目的は通訳の面子を保つことではありません。
私が出会った優秀な方々は、分からなければその場の雰囲気を見ながら、止めて確認したり、後から確認したり、間違えれば堂々と訂正を入れられていました。あまり頻繁にそういう態度をとることは不信感を与えるでしょうが、会議を生産的に進める中で流れにそぐわないやり方であれば、問題はないと思います。逆にお客様に信頼感を与えることにつながる場合もあるでしょう。
通訳を効率的に使いこなそうと、どのお客様も考えています。しかし、スピードの速いビジネス業界で、なかなかそこに重きを置いて、事前資料を出したり、ブリーフィングをしようとおっしゃって下さる企業が少ないのが現状ですし、それは仕方がないこと。
通訳は黒子として「コミュニケーション成立させようとする高い意識」を発揮しなければならないのですから…。限られた環境の中でどうやってより「コミュニケーション成立」に近づけるのか?これからも考えながら一件一件お仕事していきたいと思います。
ですが最後にちょっとだけ…
多くの通訳者が(当たり前ですが)お客様のお役に立ちたいと思っている事を今一度思い出していただいて、ぜひ”お客様の一員として会議に臨む通訳”に私たちがなれるよう、ご協力頂けたら嬉しいな…と一通訳のツブヤキでした(笑)。
2010年5月15日
通訳とヘルメット?
いろいろなイメージが有るでしょうが、一般の人が「通訳の職場」と聞いて思い浮かべるのはきっと
- バリバリにスーツで臨む企業会議室での社内会議
- ホテルでの商談会議やセミナー会議
- 国際会議場ブースに入って緊迫感漂う国際会議
のような職場でしょう。企業内会議では、社内通訳者さんと組むこともあり、社内用語や流儀などをお聞きしながら、その企業に有った訳語脈絡で訳すことが求められて緊張します。
商談やセミナーでは事前にしっかりと予定が組まれている場合が多く、情報が密な分疲労度も増します。その為セミナープレゼンなどは丸一日だと通常三人で組みます。
大変な事も多いですが、場所が一流ホテルなどだと、ランチやスイーツが充実していてちょっとした幸せも味わえますが…。
しかし、これに限らず通訳が必要な現場は実にバラエティに富んでいます。
社内通訳時代には、会社が製造業であったため、ヘルメット、安全靴に保護メガネのお仕事も時々ありました。技術を伝えるには現場が一番。物を見ながらあれこれとエンジニアどうしが交わす会話もなかなか緊迫感漂いますし、彼らのプロフェッショナルな応対に、通訳もいい意味での緊張感を得てお仕事をすることになります。私は結構好きですね。
また、実際の市場に飛び込んでセールスマンと一緒にメーカー社員が飛び込み営業をする場に同行する…という”現場”も有ります。
そうかと思えば、知り合いの男性通訳者は、キャバクラで通訳したことも有るとか…。成り行き上お供せざるを得なかったようです。が、女性通訳者だったらどうなってたのでしょう(笑)?
どんな性格の場であっても、異言語が飛び交い、言葉と文化の橋渡しが必要な場所は、通訳の職場となりうるという事ですね。
そして、私の次なる職場は作業服に始まり安全帯(いわゆる命綱)のフルセット装着を指示されました。 高所…なのでしょうか?違った意味のスリルが味わえそうで、ドキドキです。
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