2010年12月7日

第16回広州アジア大会 - インド最強


最初にご紹介したように、今回のアジア大会記者会見は同じエージェントから5か国語の通訳が対応しました。大会公式言語は中国語と英語だったため、ハブになったのは当然のごとく英語でした。
(水泳競技場地区の一角に
あったアジア大会競技の
シンボルのオブジェ)



総勢50名近い通訳が各国から集まり、それぞれが英語というハブ言語で会話をする様子からは、ちょっと大げさですが「世界は一つ」という印象を受けました。英語が通じる者同士(当たり前ですが)通訳者の間に強い連帯感が生まれていたと思います。

(韓国語のHelen、中国語のChris)


日英通訳や、他言語通訳の中にも完全バイリンガルの方が何名かいらっしゃいました。そういう方の英語は、どんなにスピードが速くても特に聞き取りには苦労しません。(と言っても、通常Native-speakerが話す以上のスピードでは有りませんでした。)

しかし、それ以外の方の英語は、やはり母国語に引きずられて癖や訛りがついて回ります。面と向かって話をする分には十分に聞き取れるのですが、記者会見場の緊張した場面でマイクを通して聞く彼らの声は、広い会場や、天井の高い会場では特に声が発散してしまい、微妙な訛りがネックになって聞き取りに苦労する場面を経験しました。
私自身も純国産ですし、正直に言って明らかにNon-Nativeの発音です。私の英語は他言語の通訳さん達にどのように聞こえていたのでしょうか?

どの言語の通訳もこの辺りは心得ていて、英語で訳出するときにはゆっくりと、はっきりと、を心がけておられる方がほとんどだったように思います。英語をハブとして逐次でのリレー通訳になるわけですから、実際、どの通訳も「自分の英語」を意識せざるを得ない状況だったと思います。

ですが、ある中英の通訳さんお一人の英語を訳出するのに、私はものすごく苦労しました。(ちなみに写真のChrisでは有りません。)まず、マイクを通して聞いた時のRのこもる発音に面喰いました。これは参った…と思いましたが、わずかにつかめる文脈をなんとか頼りにしてまとめ上げたのを思い出します。
この会見では報道陣も多く詰めかけていたため、会見が終わる最後の最後まで、中英の通訳さんの発音が気になって仕方がなく、通訳そのものになかなか集中できなかったと記憶しています。

私は今回の大会で自分が担当した会見は全部、iPhoneのVoice Recorderに録音していました。この日の会見後は帰りのバスの中で、その時の中英通訳さんの英語を繰り返し聞きなおしました。しかし、何度後から聞いても彼女のその部分の英語がよく聞こえずわからなかったのです。

同じ現象はもしかしたら私の英語を聞いた中英の通訳さんに起こっていた可能性も皆無とは言えません。中英の通訳さんは何事もなかったように私の英語をすべて訳してくださっていましたが、あとから自分の通訳の録音を聞くにつけ「ここはこう表現すれば分かりやすかった。」「もう少し落ち着いてゆっくり話すべきだった。」「もっと簡潔にまとめてもよかった。」と反省は山積みです。
これからの改善課題として、場に即した話し方、会見にふさわしい逐次でのまとめ方を研究してみようと思います。

でも、この訛りの問題で大きく物議を醸したのは、通訳仲間からではなく、会見に参加していた海外メディアによる英語での質問でした。どこのメディアだかわかるでしょうか?母国語を英語に誇る、他でもないインドのメディアだったのです。

そのインドメディアの男性はものすごい早口で、さらに「うぃーらーろっけ!(We are OK!)」的なものすごいRRRR発音で質問し始めたのです。水泳の記者会見での事でしたが、質問は中国人のメダリスト向けだったため、私はフロアに向けて逐次通訳をする必要が有りませんでした。しかし、日本人メダリストにウィスパリングしていたのですが…(よりによって入江君と古賀君…)恥ずかしながら全く通訳できなかったのです。正直に「ごめんなさい…ちょっとよくわかりません。」と選手にお詫びを入れようと思った瞬間…中英通訳さんがそのインドメディアの男性に対し 

「すみません、もう一度質問を繰り返していただけますか?」

と言ったのです。もう、彼が気の毒で仕方が有りませんでした。(が、日本人選手に対する質問でなくてよかった…と内心ホッとしていたのも本当です。笑)



(水泳の記者会見場古賀君と入江君の横で通訳する私。
ロシア語通訳さんにケータイで撮ってもらったので
画質はイマイチ…です。
ちょうどインド人の突っ込みでビビっている?
ところかもしれません。)

でも、本当の問題はそこからでした。インドメディアの男性は、席上で明らかに体勢を変えてふんぞり返り「俺のネイティブ英語が分からぬか?」とでも言わんばかりの不遜極まりない態度で、単語一つ一つを区切るように質問を繰り返したのです。
人間の態度は万国共通、言葉が分かる人も、わからない人も、その態度を見てみんな一斉に嫌悪感を示したのは言うまでもありません。また、控えとして会見を見ていた韓国語、ロシア語の通訳さんたちも後からそれぞれ、あれは全く英語として理解不能だったし、あの態度は失礼極まりないと憤慨していたほどです。 

コミュニケーションとはいったい何ぞや?を改めて考えさせられる出来事でした。これまでもインド英語にはIT系の仕事をするたびに苦労させられて来ました。しかし「話せばわかる」の精神でどんな場面も乗り切ってきた自負が有ります。もちろん、それは通訳する側もそうですが、通訳される側にも伝えよう、分かろうという態度が必要ですし、そういう表情態度は万国共通で、お互いを理解しようという気概をコミュニケーションの当事者に起こさせます。

通訳者として、一定レベルの各国の方の訛りを理解することは求められて当然と思います。それと同時に、なるべくニュートラルな発音、ニュートラルな表現の英語で話すことを心がけることも重要であり、何よりコミュニケーションの当事者たちの伝えよう、理解しようという思いをしっかりと受け止めながら通訳しなければならないと強く思いました。

通訳として「あなたの訛りはきついから私には訳せませ~ん。」…な態度は絶対にあってはならないのです。
実際は遭遇してビックリしたことあるんですけど…ね(爆)。