2020年11月8日

リモート通訳におけるマイク環境

 コロナ禍は終わりの気配を見せるどころか、再度猛威をふるい始めています。欧州では第二波を受けて完全ロックダウンに踏み切る国も有り、アメリカでは死者数が25万人に迫る勢い。しかし、世界経済はこれ以上の停滞を良しとはしていないようで、人の往来は極力抑えられてはいるため業界によりバラツキはあるものの、経済活動は加速度的に回復しているのを感じます。しかし、未だ「回復の途上にある」だけで完全復活には相当の時間がかかる…のは、私なんかが言うまでもなく皆さんご承知の通りです。

 通訳業界へ顕著に影響を与えている事実は、やはり日本がほぼ鎖国状態にあることでしょう。海外からの人の往来は基本的にストップしたままの状態で、事業を回復し動かし始めるにあたり必要な会話はリモート会議にするしか有りません。私自身、春以降お請けしたお仕事は長期にわたり発生した一件のレアケースを除き、総てがオンライン案件でした。

 オンライン通訳案件では、通訳音声をお客様に届けるためにインターネットを通じて機能するコミュニケーションプラットフォーム(アプリケーション)を利用します。これらのプラットフォームはウェブブラウザ上で機能するウェブアプリケーションと呼ばれるものが殆どで、ユーザには特にインストール作業などの煩雑な準備は必要ありません。しかし当然ながら、「機材を通して」音を聞きとる/届ける、この物理的な動作はPC内蔵あるいは外付けのデバイスを利用しておこなう必要があります。そして、この「音(音声)」の質の良し悪しが会議参加者に(これまでの物理対面の会議ばかり経験していた方には余計に)思いの外高い負荷を与えることに皆さん気付き始めているような気がします。

 これは普段から「良い音」を欲しがる通訳者にとってはお客様と理解を共有できたという意味で朗報です。しかし一方でこれは、今までエンジニア任せだった音質を「発信デバイスのオーナー」として担保する責務が通訳者に発生したという事であり、私達はこれに適切に対処する必要があるということです

 以前から、指向性のあるヘッドセット付きマイクでは環境音を拾わないと経験上感じてはいました。実際、RSI(遠隔同時通訳)プラットフォームを提供する業者は通訳者に対して、指定のマイク環境を必須要件としている場合があるのですが、むしろ高価な卓置きマイクを利用しているペアが何度も「風切り音が聞こえる(エアコン?PCファン?)」「マイクを引きずるな」「もっと声を大きく」などと指摘を受けていました。卓置きマイクの感度が良すぎるから…?程度の理解でいましたが、それにしても設備投資しているにもかかわらず納得のいかない状況です。

 そこへ先日、大学のリモート授業の実施にあたり、苦心して練り上げた授業を効果的に生徒さんに届ける取り組みの一環としてマイク環境について研究された先生の発言をTwitterに見つけました。そしてその先生が研究のまとめを動画で公開されました。マイク環境を作るために注意するポイントが、マイクの機能性をベースにとてもシンプルに分かりやすくまとめられています。公開されたご本人に許可を頂きこちらに掲載させて頂きます。


 この動画に関連し、興味深い以下のツイートも貼り付けておきます。
 通訳者はブース内でブーム先のマイクヘッドに話しかける動作に慣れているので、マイクヘッドとの距離を維持して訳出することに問題ないように思われるかもしれません。ところが、私の経験上ですが卓置きマイクを利用するペアには、必ずと言っていいほどRSIプラットフォームエンジニアから「音が遠い、マイクに近づいて!」とチェックが入ります。これは 1. 暗いブース環境と違い通訳場所が明るいこと 2. 通訳場所が生活スペースであること、で、声を殊更に張ることを心理的に憚らせているのでは、と想像しています。そうすると、このツイートで起きているような現象が発生している可能性もありそうです。

 今後も通訳という職業を続ける限り、オンライン通訳を避けて通ることはほぼ不可能だと考えています。私自身も、プラットフォーム業者の指示に従うだけでなく、積極的に良質な音声を届けるための環境作りをして行こうと計画中です。




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