明けましておめでとうございます
SNSでは折りに触れて発言していたのですが、9月末をもって完全フリーランス10年を迎えて11年めに突入しました。地元の社内通訳者として稼働していましたが、リーマンショックの煽りを受け派遣切りとなり選択の余地なくなったフリーランスでした。
10年にわたりお付き合いくださった、エージェント、コーディネータの皆さん、お客様、同僚の通訳者、駆け出しの自分は皆さんに育ててられ経験10年の通訳者になりました。また、仕事の付き合いがなくても地元広島そしてSNSで繋がっている通翻訳者仲間、時に勇気づけ励ましてもらい、時に襟をただされ…私には大切な存在です。10年のご愛顧に感謝し、今年もまた新たな10年のスタートとして相応しい年になるよう精進していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
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2019年大晦日にこのポストを書いていますが、投稿する頃には年が明けているはず…。そこで新年に向けての抱負の前に、2019年とこれまでの10年を振り返って見ます。
独立当初はとにかく「続けて行けるのか?」という不安でいっぱいでした。実は、この不安は10年経った今でも完全に払拭されている訳ではありません。あの頃とは違い、ITの進化によって通訳現場にも遠隔通訳など新たな動きが生まれています。翻訳は機械翻訳の波が押し寄せ業界は今まさに大きく揺れています。ですが、この「続けていけるのか?」という不安はあの頃感じていた得体の知れない不安ではなく「健全な不安」だろうと今では認識しています。折しも2019年の通翻業界は「通翻訳者の不安」につけ込んだ情報商材(一部は詐欺)ビジネスに湧いた一年ではなかったでしょうか?
10年続けてきて思うのは、確かなレベルの技術を日々の仕事の中で提供し続けることこそが、通訳翻訳者には一番のマーケティングだということです。通翻訳者が商品とする私たちの技術は、松竹梅のように品質・機能レベルを加減した店頭に並ぶ商品とは本質的に違います。個人の通翻訳者がその時々に出せる技術レベルこそがコア商材です。お客様の要求に応えられる技術レベルを確保し日頃の仕事でパフォーマンスを出し続けていれば、殊更に「商品説明」はそもそも必要ないと思うのです。
もちろん、対応可能分野、稼働地域、お客様への当たり、スムーズなコミュニケーション等の付加価値があることはお客様やエージェントさんには魅力ですが、意識・行動で直ぐにでも対応可能なものが少なく有りません。しかし、コア技術(通訳・翻訳)が要求レベルになければ付加価値は無意味です。
実際、私が頂いた多くの仕事は、ご一緒した同僚が仕事ぶりを見て声を掛けてくれたり、エージェントさんを紹介してくれたり、提供した技術レベルや仕事ぶりをエージェントさんが評価した上で異なるレベルや分野の打診を下さった結果、成立したものでした。
独立して数年後「フリーランス」「セルフブランディング」という言葉がもてはやされた時期がありました。恥ずかしながら私自身もこのブログとビジネスサイトを作成し、頻繁なブログポストやSNS発言を通じて固定ビュワー数を増やし、ビジネスサイトへのフローを作り、検索ランキング上位表示を目指してそこから仕事につなげる…という流行りのコンセプトに乗った時期もありました。しかし、そんな目論見通りのネット集客シナリオが実際に仕事に繫がった経験はほとんどありませんでした。
文章を書く事は好きで、思いが湧いてくると一気に書き上げ投稿したものです。幸いな事に同業の皆さんや通翻訳者を志す方に読んでもらえた事で、業界内イベントに参加すれば「広島の宮原さんですか?」とお声がけいただけるようになりました。そのようにして私を知って頂いて打診を頂いたお仕事もいくらかありますが、それも通常は実績表を先方に提示するというプロセスを踏んでいます。つまり、実績を評価して頂かなくては商談そのものが成立しなかったのです。
このブログでの発信やビジネスサイトの立ち上げは、当初目指したマーケティングとはまったく違う、コミュニティとの繋がりを私に提供してくれました。これは嬉しい誤算でした。フリーランスになった当初の私が未熟な自分を諦めず、遅い歩みでも粘り強く進歩し実績を重ねることができたのは、協力し支えてくれた同僚や先輩、試してみようと使ってくださったエージェントさん、そして業界内で有益な情報をくれる友人、息抜きに付き合ってくれる仲間達、そして信頼して私にご依頼下さったすべてのお客様のお陰です。数十万円するコンサルサービスや情報商材を購入しなくても必要な情報は同業者から得ることができました。「客観的な評価」という実は「自分以外の誰かの主観的評価」に主導権を渡さず、安易なマーケティングに依らず、自分の頭で考えて10年かけて(通訳翻訳業を継続している)今の私が有ります。
とは言うものの、自分の未熟さに悔し涙を流したり経験不足から周囲にご迷惑をおかけしたことも少なく有りません(ああ、ごめんなさい…)。ただ最近では、これはキャリアのどの段階にあっても目指す自分があれば散発的に経験するものだと考えるようになりました。誰の評価を当てにするのではなく、獲得したい技術レベルや成りたい自分の姿を自分自身で更新していく中で、困難は必ず訪れるはずです。困難があるからこそ、冒頭に書いた「健全な不安」がある訳で、そう考えればむしろそれは「持ち続けるべき不安」なのだと思います。そして困難を克服していく事で少しずつステップアップしていけるのでは無いでしょうか。これからの10年もゆっくりと、でも粘り強く、なりたい自分に成長していきたいと思います。
そしてまずは初めの一歩、2020年。体力の衰え、技術進歩へのキャッチアップ等、不安材料は増えますが、平常心で「健全な不安」と折り合いをつけながら頑張りたいと思います。
本年も改めてどうぞよろしくお願いします!
宮原 美佳子
ピースリンク通訳事務所 代表