2015年7月15日

発音の悪い英語は迷惑か?

英語に興味をもっている方や英語を使って仕事をしたり世界を広げたいと考える学習者に、どうしても伝えたくて書くことを決めました。

発音の悪い英語は迷惑か?

そもそも物議の発端となったのは、NY在住の会議通訳者兼英語講師(以下、YOさん)の『下手な発音で英語を喋るな。気持ちが通じれば良いなどと、下手な英語を聞かされる方は迷惑である…』という主旨のTwitterでの発言でした。

先に私個人(いえ多くの方が彼女に反論して言っていますが)の結論は「どんどん使おう!気持ちを伝えよう!」です。

YOさんをTwitterで見つけたのはごく最近のことでした。プロの実績と自信をベースに歯に衣着せぬ物言いでのツイートを頼もしいと感じるフォロワーも多くおられたと思います。私もフォロー当初はその一人でした。一見ぶっ飛んでいるように見える発言も彼女が前提とするところを正しく理解しさえすれば、特段に炎上するほどのことでもなく、至極まっとうなことを言っていると感じていました。それはこの上記の発言についても「ある程度は」当てはまります。

それでは彼女が前提とするところは何か?「ある程度」としたのは当の本人がその前提を明記していないからです。(私の推測の域をでませんが)その前提とは

一定の成果を出すことが求められる非常にインテンシブなビジネス・交渉の現場
です。


Communicativeであるとは?
発音が悪いと英語として聞きにくいのは、世界中のノンネイティブ英語を聞かなければならない通訳として痛感しています。しかし、実際の現場では発音そのものよりも「Communicativeかどうか?」の方に重きが置かれます。言葉の選択に優れ、ネイティブの言い回しに慣れていても、発音がいいとは言いがたい方は多く存在します。もっと言えば、有名で実績もしっかりした日英通訳者の全てが完璧なネイティブ発音をマスターしているか?と言えば、答えはNOです。

自分の言いたいことを 1.ポイントを絞りつつ 2.自分の言葉で説明し 3.質問に的確に対応できる 英語力が求められるわけですが、この三点を会議で求められる程度に満たすのであれば、そこで話された発音のレベルで十分にCommunicativeであると言えます。

実際に発音のマズイ方でも英語ベースの会議に出席する方は数多くいます…というより、ノンネイティブであれば発音をほぼマスターしているというレベルの人の方が珍しいでしょう。ですが、発音がイマひとつでも会議に大きく貢献される方は多くいます。そういう方には学生時代に読み書きを集中的になさったと思われ、彼らの英語は文章として十分に成立しているため会議の流れから発言内容を理解するのにそれほど困難を感じません。もちろん、読み書き以外にも沢山の英語を聞いて、英語での自然な論理展開の仕方を研究されていもいらっしゃるのでしょう。


なぜ迷惑と思われるのか?
一方、発音もマズく会議でこの人が英語をしゃべっては困るというタイプ…これも経験上ですが「自分は英語ができるんだぞ〜!」ということを誇示したいタイプが一部混ざっていますが、多くは会議本来の目的を超えて「この会議を英語練習の場として使いたい!」としている方ではないでしょうか?

通常、個人でビジネスをしているのでない限り、チームメートやビジネス・パートナーは関係者の英語でのコミュニケーション能力を把握しています。インテンシブな交渉や商談に耐えるコミュニケーション能力のないメンバーがテコでも英語を使おうとする場合には、チームメンバーやボスが予め通訳手配やその他の対応を指示するでしょうし、それもできないようなチームでは会議に臨む前から交渉そのものの行方は怪しいと言っても過言ではありません。

そして、上記前提の現場で一定のレベルでコミュニケーションができない(Communicativeでない)英語を使われると、会議目的の達成に支障をきたし、それでは甚だ迷惑だ…ということになるのは当然のことなのです。

ですが裏を返せば、チームメンバーやボスからそういった指示が入らず、自分でも十分に準備して会議に臨める自信が有るなら試してみるべきでしょう。健全な職場であれば、上手く行かなくとも通訳を使う、発言者を変える等の指示が入るでしょうし、その時に謙虚に指示に従いもう一度自分の英語レベルの検証すればいいだけの話です。英語ネイティブは絶対にその姿勢をバカにしません。それどころかあなたの姿勢を "Nice try!" と讃えてくれるでしょう。


「どんどん使おう!気持ちを伝えよう!」
一方、表敬、交流、意識合わせを目的にするレセプションや会議他では、まさに気持ちが通じることを目的としています。一緒に仕事をする仲間についてお互いが知り合う機会であり、そういう場で日本人が英語を敢えて話そうとする姿勢を見せることは、相手に対しての最大の歓迎を表すことになるでしょう。

逆の立場で、英語ネイティブが日本語を話せばどう思いますか?言語として大きく違う日本語を、拙いながらも会話ができるレベルに仕上げていくことの努力は、苦労して英語を学んでいる日本人であれば理解に難くありません。お互いを知る上で、相手の言語に寄り添って理解したいという姿勢を見せることは、その後の関係に大きく寄与することになるでしょう。


学問に王道なし、英語習得にも王道なし
こうすれば上手く発音できるようになるという手法はいくつも一般に提案されています。そして、自分の発音がマズイと感じる、あるいはそう指摘されているのであれば積極的に取り組んでいく姿勢は必要です。しかし、人によって合う方法、合わない方法があり、コレさえやればみんなが上達する…という意味での王道は存在しません。これは発音だけの問題ではありません。

英語は、a. 読む、b. 書く c. 聞く d. 理解する e. 話す 全てがバランスよくできてこそコミュニケーションが成立します。しかし、その全てが完璧でなければコミュニケーションできないわけではありません。さらに、積極的にこれら五技能は実践を繰り返すことでしか上達しません。たくさん書いて、聞いて、理解して、話して、実際に使いながら長く付き合っていくことができる…それが言語習得の醍醐味ではないでしょうか?

私自身も完全バイリンガルを目標とするなら、発音にかぎらず多くの側面で一生途上…だと思っています。なので、このブログポストを書きながら自分自身も鼓舞しています。元ツイートはご本人が削除したようですが、なぜ削除されたのかはご本人のみぞ知るところ…。でも、大量にリツイートされていたので、そのツイートだけを目にした人達がやる気を削がれたり自分の今までの前に出ようという意欲を恥じたりすることは避けられるので、結果的には良かったのかもしれませんね。

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例年、3月の決算締め月に向けて皆さん予算を使い切ろうとなさるのか、2月中旬から通訳業界は多忙を極めます。そんな中、 なんとかかんとか確定申告を終わらせて、週末にほっと一息ついているところです。 このブログのオーナーである私は、今でこそ東京住まいですが、出身の広島には頻繁に帰省して...