2012年2月15日

異文化理解-質(≠技術力)の高い通訳者

先日Twitterでおもしろいブログ記事が流れてきました。『ロシアでは「ごめんなさい」はかえって怒られる-ロシア駐在日記』です。詳しくはリンク先を見ていただきたいのですが、おおよそそのタイトルの通りの中身で、謝る順番が文化的に違うため、本来意図しない印象を相手に与えてしまいコミュニケーションが上手く行かない、というものです。

この特定の例についての回答は比較的簡単だと私は思っています。それは、この方はどうもインハウス通訳として同じ組織に継続勤務されているようだからです。であれば、その都度「日本式、ロシア式どちらに合わせるか?」などのようなことをしなくても、事前に両サイドにそうした文化の違いがあることをハッキリ伝えておけばよいからです。

事前に伝えたからといって、会議はダイナミックに進むのがつきものですから、そのあたりを加味して考えるのが難しいというのは結構つきもの。そんな場合は、都度、通訳を聞いている人に対しては一言「ロシア(日本)では謝罪を後で(まず最初に)言います。」と耳打ちしてあげればいいのです。


事前に聞いたことを思い出すくらいはすぐできますから、後はオーディエンス任せで問題ないでしょう。というよりむしろ通訳が立入った判断をすることは避けるべきです。

この手の問題は通訳の技術力が高ければ発生しない、という類のものでは明らかにありません。

ところで、多くの海外に支店を持つような日本の大企業では、エクスパットと呼ばれる日本駐在者達がいます。企業は通常彼らに来日前に”数日にわたる”「異文化理解プログラム」の受講を義務づけているようです。

例えば、
-日本人はハグしない。握手も女性には求められたときだけ。
-日本人は分っていても無反応。回答しやすい質問を工夫しよう。
-日本人は、名刺を丁寧に扱う。もらってすぐにポケットにしまわない。

私自身受講したことがあるわけではないので分らないのですが、聞いた限りでは上記のようなもののようです。ただ、ここに書いたのは基礎中の基礎。数日にわたってレッスンするほどに文化の違いは大きいのか…と改めて驚かされます。

そういえばIJET22@シアトルでは地元のUniversity of Washingtonから講師(加藤教授)を迎えて「文化の違い」についてセッションをされましたが、その時にアメリカの自動車会社フォードと組んで、はじめてそうした日米間異文化教育のプログラムを開発したとおっしゃっていました。

オーディエンスによる事前の異文化教育プログラムの受講は、外国人が現地での会話を進める上で助けになるでしょう。しかし、それに止まらずオーディエンス自らが徐々に現地の感覚が理解できるようになる必要もありそうです。

それでもオーディエンスにはカバーできない部分があります。上記のロシア語通訳の方のブログの例や、エクスパットへ事前トレーニングは「異文化」であることがネックになっていますが、必ずしもお国の文化の違いだけが「罠」ではありません。国によって企業文化や特定の業界文化が違うことは珍しくありません。

効率よい議論のためにはそういった所も一つ一つ克服していく必要が有ります。でもそのすべてをオーディエンス自身でカバーしていくことは難しいことなのです。何せオーディエンスはまず「言語」の壁に直面しているのですから。

そのカバーできない部分でこそ、通訳の「経験」による「場を読むチカラ」が大いにものを言います。言語文化を含めて会話に込められたメッセージの背景まで理解して通訳するチカラです。通訳の立場で言語的メッセージに止まらず、その思考の背景にまで配慮して理解し通訳するチカラです。オーディエンスからの信頼が篤いことが大前提ですが、時には説明を加えることが許される場合もあります。

これは「単に言語における技術力が高ければ良い通訳ができる訳では無い」ということを端的に示しています。

意思疎通の完成度を上げるために言語技術の高い通訳を使うことは重要です。しかし、必ずしも技術が高いことが「質の良い通訳」とリンクするわけではなく「場を読むチカラ」があってはじめて達成できる通訳レベルがある、というのが今日の結論です。

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例年、3月の決算締め月に向けて皆さん予算を使い切ろうとなさるのか、2月中旬から通訳業界は多忙を極めます。そんな中、 なんとかかんとか確定申告を終わらせて、週末にほっと一息ついているところです。 このブログのオーナーである私は、今でこそ東京住まいですが、出身の広島には頻繁に帰省して...