2014年8月16日

「おい、スティーブ!」はオリジナルにはなかった…(世界の料理ショー)

昔から料理番組が大好きな私ですが、急に思い出して「子どもの頃に見てたあれなんだったっけ?」と調べたアメリカの料理番組がこれ。「アメリカ 料理 70年代」で検索したら一発で出てきました。

「世界の料理ショー」
Galloping Gourmet / Graham Kerr


まず、あの当時男性がネクタイ姿で料理しているのが斬新でした。当時の豊かな「アメリカ」が、電気製品、カトラリー、カラフルな鍋や食器類として「台所」ではない「キッチン」の随所に散りばめられていました。それら全部を曲芸みたいに操り、さらに軽妙なオシャベリでたまに裏方Steveに「おい、スティーブ!」なんて毒付いたりオヤジギャクを飛ばしながら、美味しそうな料理を完成させてしまいます。

今見ても本当に楽しい。ところが、あらためて気付いた事があります。当時私は当然日本語で観ていましたから、あの楽しい軽妙な彼の語り口は「日本語の吹替え」でした。つまり、吹替用のスクリプトが素晴らしい!ということだったのです。英語の動画も見ましたがGrahamの語り口を全く損なっていないし、再現している声優さんも本当に上手い。

最後に、翻訳者と声優の名前がクレジットされていたので、ちょっと調べてみたところやっぱり素晴らしいにはそれなりの理由がありました。翻訳者は小川裕子さん。そして声優は数名が担当していたみたいですが、最終的にはの黒澤良さんに落ちついたようです。
グラハム・カーGraham Kerr の初代吹替・浦野光インタビュー
(平凡社『QA』1991年2月号掲載)

「ぼくが声を担当していたころは、東北新社のディレクターの川村常平さんと翻訳の小川裕子さんで、日本語版を作ってたんですけど、翻訳の小川さんがこの番組に惚れ込んでいましてね。

外国のギャグなんて、そのまま翻訳しても日本では通じないもののほうが多いから、ストーリーに合わせていろいろアレンジしてくれたんですよ。
それでもまだ、グラハムの口と台詞が合わない部分が出てくるんです。

そこで、番組のスタッフロールにスティーブっていう監督の名前が出てくるんですが、こいつを使って台詞を作ろうということになりましてね。

ですから日本語では、『だめじゃないか、スティーブ!』とか言ってますが、実際の作品にはそんな台詞はないわけですよ」
なんとオリジナルではスティーブに突っ込んでなかったとは!この他にも、アメリカのポップを口ずさむところを吹替ではピンクレディーの歌詞で歌わせたりしていたそうです。Grahamのあの軽さに合わせて「やっこさん」「おっかさん」「べったり塗ってね、オバちゃんの厚化粧のように。」「はいはいカワイイ僕のチキンちゃーん」なんて、日本人の耳にとても楽しいじゃないですか。まぁおやじギャグではありますが(笑)

「奥様は魔女」に始まりアメリカや海外のテレビドラマやショーは小さい頃から見てきましたが「面白かった!」と記憶している物にあまり「吹替え」を意識して見た覚えは無いな…と今更思います。原語で理解できる楽しさもありますが、深く自分の中に馴染んだ日本文化の脈絡で優れた日本語吹替えを聞くことで、作品を堪能し尽くす事ができていたのだなぁ…と、映像翻訳者の仕事の奥深さを再発見しました。

2014年8月15日

「最低でも通訳には…」と言わないで!

私は常々、スポーツチーム所属の通訳者は究極のインハウス通訳者だと感じています。以前も何度か描いた事があると思うのですが、日々勝負を重ねる選手や監督たちと生活を共にし、同じ目標に進んでいくために彼らがカバーしなければならない範囲は、一般企業のインハウス通訳とは比べ物になりません。

先ごろワールドカップサッカーでの日本敗退を以ってザッケローニ監督が退任し、彼が就任以降ずっとサポートし続けた通訳矢野氏も退任となったようです。(矢野氏については彼が就任当初にも記事を書いています。)矢野氏が在任中にどんな風に自分の職務に取り組んでいたかが伺えるニュースを見つけました。

MSN産経ニュース
「通訳が今明かすザックのプライベート 和食レストラン探しに歯科医の付き添い!? 」
2014.8.15 07:00 (1/3ページ)[スポーツ・ウオッチ]

この中で彼は次のように語っています。
通訳業の重要なポイントに挙げたのが、(1)専門知識(2)集中力と記憶力(3)情報収集能力(4)伝達力(5)監督への忠誠心-の5項目。

多くの場合スポーツ通訳者はその競技の経験者が採用されることが多いようです。それは、求められる専門知識がかなり特殊で深い…ということが有るでしょう。また、日々繰り広げられる勝負の中で常に数字を意識しながら、選手と一丸になって試合に臨む姿勢は欠かせません。通訳者も間違いなくチームの一員です。

そして、何よりチームのメンバーからどれだけ信頼されているかは、最も重要なポイントではないでしょうか?矢野氏はこれについては「監督への忠誠心」という言葉で表現してます。ですが、実際には彼の人柄がとても重要なポイントを占めていたように推察しています。

私も個人的に地元野球球団の通訳さんを知っています。お会いして話したことは一度しかないのですが、球団に寄せる愛情と熱意をもって取り組んでおられる様子がオシャベリの中からもヒシヒシと伝わってきて、その人柄に触れてすぐに彼の大ファンになりました。

つまり、球団や選手に対する忠誠心や人柄で、通訳が好感を持たれ信頼される存在にならなければ、上手いコミュニケーションは取れないということです。これはビジネスでも程度の差はあれ同じことが言えると思っています。

インタビュー記事からは「やりきった!」という感じが読み取れます。本当におつかれさまでした!ただ一つ言わせて欲しいのは、記事の最後に「最低でも通訳くらいにはなれる(笑)」と言っている点…。選手として大成できなかった自分を評して謙遜している言葉だと思うのですが、とても残念です。彼が監督とチームに信頼され4年間務め上げた功績は大きいと思います。しっかりと胸を張って、今後スポーツ通訳を目指す人たちへエールを送って欲しい!と思いました。




2014年8月10日

「漫画貧乏」 佐藤秀峰 著

佐藤秀峰
漫画貧乏
Kindle版 ¥ 0
「海猿」「ブラックジャックによろしく」のマンガ家 佐藤秀峰氏のエッセイです。

デジタルの普及に伴い長い不況にあえぐ出版業界の影響を、マンガ家のみならず執筆を生業とする方はもろに受けているということが分かりました。その中でもマンガは、仕上げるために何人ものスタッフの手がかかり、題材の取材費などを含めると、「売れっ子マンガ家」と言われる人でも、単行本の売上が一定数なければ基本赤字運営なのだそうです。

佐藤さんのサイト: マンガ on Web
http://mangaonweb.com/creatorOnlineComicTop.do?cn=1


この本は、そういう出版業界とマンガ家の関係とは別に、独自で作品を発表するプラットフォームをデジタル・ネット上に構築するまでの佐藤氏の実話です。自分だけでなく多くのマンガ家が自分の作品に誇りを保てる対価を得る仕組みを作る中で、様々な困難や時には同業者からの批判に直面します。それを自分なりに解釈してそれでも前に進んでいく様子が語られています。

フリーランスという立場は翻訳者・通訳者にも共通しており、出版社を通訳・翻訳エージェントとして読んでみることができるように思います。さすがにマンガ家と出版社の関係ほどの酷さが「常識」とはなっていません。しかし、中には最低賃金を割るような翻訳レートのオファーも出てきているとか…?

マンガの中にも出てくる、編集者の「誰がお前のマンガを売ってやってると思ってるんだ。」というセリフと、それを言われると萎縮してしまうマンガ家の感じ…というのは何とも象徴的だと感じました。しかし、佐藤氏は「出版社も原資であるマンガを買い、それを売ることで利益を上げている。そう考えれば出版社はけしてマンガ家のために売っている訳ではない」と気付きます。お互いがお互いのビジネスを尊重し、利益を上げるために納得行く形で手をとれる関係が必要ということでしょう。

自分の仕事が好きで本当にそれを続けたいと思っているのに、それでは生活が立ち行かない…。私が購読しているメーリングリストにも最近までこんな話題が出ていました。でも、現状に不満を述べ自分の主張だけを叫んで何も行動を起こさなければ、変化はおとずれません。佐藤氏はものすごい精神的経済的な重圧の中で、諦めずに前へ前へ進んでいきます。

その中で、あまり多くは登場しないのですが、彼の奥様が優しくそして力強く彼を支えていることを随所で感じました。自分が正しいと思う道でも、必ずしも周囲の全てが支援してくれるとは限りません。その時に応援してくれる人がいるかいないかは、その人がどういう生き方をしてきた人なのか?他者を尊重できる人なのか?何より、自分の信念にどのくらい本気であり正直な人なのか?を知っている人達でしょう。

少し前に「速く行きたいなら一人でも行け、遠くに行きたいなら仲間と行け。」というアフリカだったかの言葉を聞いて、深いな…と思いました。

自分が変えたい現状について、他者による変化を望むのはおよそ不可能です。自分にしか変えられません。であれば、アイデアを沢山持っていることは変化に向けた行動をする上で大きな強みとなるでしょう。でも、それを支える信念や仲間も同じくらい大切だ、ということもこの「漫画貧乏」は教えてくれている気がします。

2014年8月1日

翻訳者のオフ会 @ 広島県福山市

Facebookの中国四国通翻グループに集まった翻訳者の会話から、来週土曜日に広島県福山市でオフ会が開催されることになりました。アメリカから一時帰国中の翻訳者を含めた地元翻訳者が集まってゆるくオシャベリの予定です。

福山はJR岡山駅から在来線でちょうど一時間くらい。岡山市や倉敷市在住の方がいらっしゃればアクセス圏内と思います。

マイナー地方都市(おっと失礼!)でこうしたオフ会があることは珍しいと思います。少し遠い方も足を伸ばして見てはいかがでしょうか?

【翻訳者オフ会(ゆるくオシャベリ)】

日時:
8月9日(土)13時~(14時の時点で全員顔合わせられたらいいな)

場所:
JR福山駅から徒歩圏内のカフェで
天満屋の中のアフタヌーンティー or
駅直結の「さんすて」内のUCCカフェなど

すでに数人のメンバーが出席予定です。特に事前の予約は必要ありませんが、一言お声をかけて頂いていると嬉しいです。よろしくお願いします。