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2011年11月27日

「侍とキリスト」ザビエル日本航海記 ラモン・ビラロ 著/宇野和美 訳

夏前だったか、知合いのスペイン語通訳さんがTwitterで紹介しておられた歴史小説の訳書です。おもしろそうですぐに購入したものの、ハードカバーのため持って歩くのに難があり、しばらく本棚の端に積まれたままになっていました。ふと「この調子でいくとずーっと読まないかも…おもしろそうなのに。」と思い、読み始めてみることにしました。

そうしたら何とおもしろいこと!ほぼ2日で読み切ってしまいました。ストーリーもさることながら、それ以外の面でも十分楽しめました。

日本史の授業で誰もが習う、日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルの日本での布教活動を書き表したものです。無実の罪をきせられ日本を逃れマラッカに渡った弥次郎という男と出会います。彼はポルトガル船で覚えたポルトガル語を話し、遠い日本についてザビエルに聞かせ、ザビエルはまだ見ぬ日本の思いをはせるようになります。そして、弥次郎を通訳として連れて日本へ渡り布教活動の旅がはじまります。


あまり書くとネタバレしてしまうので、ストーリーについてはこの程度にとどめましょう。ストーリー以外で興味深かったのは、通訳として連れて行かれる弥次郎が遭遇する様々な場面です。

通訳としての立場をどう捉えながら通訳していくのか…通訳/自分の介在を認めてしまい「こちら(日本)」「そちら(海外)」が混乱する場面。宴席での通訳で必死に食べながらの通訳。難しいキリスト教の教義を四苦八苦しながら説明する様子。
日本人の事が分かりすぎているため、ザビエルの言葉に自分で受け答えしてしまったこと。そして、ザビエルの言葉を自分の解釈で短くまとめすぎ、ザビエルの不信をかってしまったこと。

通訳の技法を全く知らないと、こんなにも大変なんだ!と、物語の中の弥次郎についつい肩入れをして読んでしまいました。

ザビエル来日後に、弥次郎以外にも連れの中から、そして日本女性の中から言葉を学びザビエルを助ける者が出てきます。しかし、その習得の速さはめざましかったようです。ザビエルに、彼らのみならず日本人はおしなべて教養がある、と何度も言わせているのが印象的でした。

また、教義の翻訳をする場面では会話のできる弥次郎の力が及ばず、言葉を専門に扱う学のある弥次郎の叔父が手伝いを買って出ます。これはまさに、言葉を知っていれば訳せるわけでなく「内容を理解してはじめて翻訳ができる」ことの現れであり、こんな昔の人たちでさえそれを理解していたのです。それなのに「言葉を知ってれば訳せる」と勘違いしている人が500年以上たった現在にもなんと多いことか(笑)!


そして、もう一つストーリー以外で「良かった!」と思った大きな理由は、訳書としての素晴らしさです。

当時の日本の情景が生き生きとした筆致で書き表されています。日本人が海外に憧れていた様子、そして、海外からやってきたザビエル一行が見た日本、日本人の姿が立ち上がってくるような感覚。読み始めた当初から、非常に優れた訳書だと感動しました。


私は訳書を読むのがあまり好きでありません。読み始めるのに時間がかかったのは、最近あまり読まない歴史小説であること、訳書であることも大きな理由でした。しかし、訳書としてこの本は本当に素晴らしいと思います。具体例を挙げればきりがないので、ここでは割愛します。しかし、日本語はこんなに豊かだったんだ…と、なんだか忘れていた日本語を思い出したような、そんな感覚です。

訳書を読んだ…というより、良質の日本語の本を読んだという読後感でした。「訳書はレベル的にどうも…」という方には訳書を見直すきっかけになるかも知れません。