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2011年9月5日

8. 通訳メモの訓練-「思考の整理学」

「通訳さんはどうやってメモを取るのですか?」「さっきの会議なんですけど、議事録まとめるのに通訳メモを見せて頂けませんか?」と聞かれる(お願いされる)ことがあります。来年のIJET23に向けての準備の中で、仲間の翻訳者からも「通訳さんのメモ取りってどうやっているのか興味がある…」という声も聞かれました。

おそらく、通訳者のメモは速記のようなものだと思われているのでしょうが、実際には全く違います。速記はスピーカーの発言を間違い無く記録することを目的としていますが、通訳のメモはスピーカーの発言を理論的に捉え再生するための「記憶の補助」であるというのがその理由です。

私を含めほぼ全ての通訳者がそうだと思うのですが、自分のとった通訳メモを見せたい人はいないはずです。なぜなら、人様に見せてもとても解読できるような代物ではないからです。「実際に通訳する時」に「記憶の補助」として「自分にとって」解読できるレベルであれば何ら問題は無いわけです。つまり「後から見て」「第三者」が解読できる必要なないということです。



通訳学校でも会議通訳入門くらいのクラスになると、通訳メモのレッスンがあります。私が通っていた頃のレッスン内容はこうでした。

  1. ある会議の音声を聞かされ、発言毎にメモを取っていく。
  2. 同じ会議音声を聞いて取られたプロ通訳のメモを配布。
  3. 自分のメモと見比べ、学ぶべき点、工夫すべき点を探る。
「配布されたプロ通訳のメモ」は、それだけ見れば話の流れが見えるように適度にインデントがされています。さらに、自分で決めた記号等を使い、書き言葉をエコノマイズする工夫がされています。これは、多くの通訳者がやっている手法です。具体的には、「思う。」にハートマークを使ってみるなどです。

ですが、第三者が見て話の流れが取れるような通訳メモができることは、ほぼ稀…。なぜならば前述のように「メモは記憶の補助」に過ぎないからです。極端に言えば、全部記憶できれば(思い出せれば)メモは必要ありません。

そして、理解できる範囲のトピックで論理的に話されている事はかなりな部分リテンション(記憶保持)が利きます。それは通訳するという言葉の再生行為段階で、論理展開を再生する中から記憶を呼び起こす事が可能だからです。そうであれば、下手にメモをとることで余計なエネルギーを消費する必要はないわけです。

通訳者が知識を持ち合わせない専門的な会議に入る事が難しいと思ったり、事前に資料を欲しがる理由はまさにこれです。話がいくら論理的に展開していても、日本語の用語が分からなかったり、論旨がピントこなければ、それはもやは論理的展開として通訳者の耳には入ってきません。すると、再生時に記憶を呼び起こすことに支障が出ます。そういうときのための、事前準備で、メモであるわけです。

以前、スペイン語司法廷通訳の中西さんがUstreamの講演の中でおもしろい事を言っておられました。「メモ用紙が無くなってしまい、仕方が無いので手のひらにぐるぐると指でなぞりながら発言を聞いて、通訳するときは、今度は反対にぐるぐる指をなぞったら、なんとなく発言の内容が思い出せた。」

通訳はなぜ、通訳が出来るのか?をもっと本質的に考えれば答えが見えます。「話の内容を整理しながら聞く事ができる。」能力を鍛えているからです。

外山滋比古氏が有名な「思考の整理学」という書名の本を書いていますが、関連する記述があったので紹介しておきます。(この「思考の整理学」、まさに通訳者が身につけるべき学問、スキルでしょうね。)






…昔、ある大学者が、訪ねてきた同郷の後輩の大学生に、一字一句教授のことばをノートにとるのは愚だと訓えた。いまどきの大学で、ノートとをとっている学生はいないけれども、戦前の講義と言えば、一字一句ノートするのが常識であった。教授も、筆記に便なように、一句一句、ゆっくりと話したものだ。

 その大学者はそういう時代に、全部ノートするのは結局よく頭に入らないという点に気付いていたらしい。大事な数字のほかは、ごく要点だけをノートに記入する。その方がずっとよく印象に残るというのである。
 字を書いていると、そちらに気をとられて内容がおるすになりやすい。
…(中略) …
 もっぱら耳を傾けていた方が話はよく頭に入るのである。


どうやら会議内容を効果的に議事録にまとめるには、通訳者に「メモ取りの極意」を学ぶより、話を集中して要点だけを自分なりにメモを取りながら聞くことの方が、有効のようです。