機械翻訳というと一般的にWEBサイトで提供されているサービスでは、Google翻訳やExcite翻訳等があります。ただ、「機械翻訳」と言ってしまうと人の介在が皆無の印象を与えるため、場合によって「翻訳ソフト」という呼び方をするようです。翻訳ソフトは誰が使っても質の高い翻訳ができるというようなものではなく「専門知識と技能を備えた翻訳者によってその真価を発揮できる。(Wikipedia より)」…らしいです。
よく翻訳支援ツールを機械翻訳と勘違いする人がいますが、翻訳支援ツールはあくまでも翻訳を「支援するツール」であって、翻訳作業そのものは行いません。大きな特徴は、登録済みあるいは既出の単語やセンテンスをメモリーとして管理し、新たに翻訳する文章の中から、完全/一部マッチする登録単語/センテンスを見つけて訳出の候補として表示してくれることです。
翻訳者の方がこれを読まれている場合「今更、何を言ってるの?」という感じの事実ですが、今回は「機械翻訳」について書いてみようと思っているため、まずはその定義を明らかにして次に進めようと思った次第です。
機械翻訳/翻訳ソフトの精度は年々劇的な進化を遂げており「将来は翻訳者も通訳者も要らなくなるのでは?」という問いは、過去に何度なされたか分かりません。その度にプロの翻訳者・通訳者の多くは「翻訳者・通訳者の仕事はなくならない。」と言っています。
が、ここでトリッキーなのは「翻訳者・通訳者の仕事は減らない。」とは誰でも言っていない点です。
今まで機械翻訳には全く興味が無かったので試したことがなかったのですが、先日はじめてMicrosoft(c)Wordの翻訳機能を使ってみました。この機能、実はもう随分前からWordには備わっているみたいなので、今更はじめて使ってみた…というのも、ちょっとお恥ずかしくはあるのですが。
”翻訳機能”を起動することで当該文書をインターネットを経由してHTML形式でMicrosoft(c)Translatorサービスに送信します。するとInternetExplorerが起動して文書の翻訳結果がブラウザ内に表示されます。
品質的にはとても”翻訳アウトプット”としては使えません。しかし、該当箇所に何が書いてあるのか?という疑問には、十分答えるレベルになっているのがすごいところです。内容に詳しい専門家が見ることで理解度はさらに上がるでしょう。おまけに、理解不可能な文章についても、カーソルを合わせればその部分の原文を確認することができる仕様になっています。
これは言うまでもなくWordに提供されている簡易機能ですから、いわゆる有償の”機械翻訳/翻訳ソフト”の使い勝手や品質は、今回よりも数段高いものを期待しても良さそうです。
これまで私が経験した機械翻訳は、Google翻訳、Excite翻訳などの簡易的なものだけでした。ですから、大量の文書を一度にこれだけ”翻訳”(厳密な意味では翻訳していないのですが…)し、しかも品質が完全でないことを考慮した上で原文表示の機能を持っているこのシステムは、私にはとても画期的に映りました。
翻訳者が翻訳する場合、どんなに「意味が分かればいいので適当にやって下さい。」と言われても、プロ翻訳者であれば「適当な仕事」をするわけには行きません。使う側もひどい翻訳が出てくれば「次からこの翻訳者はやめておこうか…」となってしまう可能性も出てきます。しかし、最初から「機械翻訳」と分かって使えば、一度に大量の文書を処理できるメリットは捨てがたいでしょう。
こうしたメリットを発揮できる場は、実は社内翻訳には多く潜んでいる気がします。私がよく呼んで頂くクライアントのマネジメント職にある方は、最近赴任されたばかりで、社内の過去の会議議事録や資料をなるべく全部読み込んでから関連会議に臨みたいと考えておられます。つまり、すべて「過去」の資料でありながら「彼の理解」の為だけに大量に人的翻訳リソースをかけています。
以前勤めていた自動車メーカーでも、発生した不具合を探るために過去の試験データや解析結果を大量に翻訳する作業が必要になることもありました。しかし、それを必要とするのはごく一部のエンジニアであり、一度記録を確認してしまえばそれをベースに次は彼らの試行錯誤がはじまり、翻訳済みの書類はあっという間に必要なくなります。
監査などにおいては、監査先の社内書類に大量に目を通す必要が出てきます。そのため、監査官が外国人の場合多くの翻訳リソースをかける必要がでてくる場合があります。しかし、それら翻訳アウトプットの多くは、法規要件に従って適切に社内方針や手順が定められ、文書化され、実際に手順が実行されているかどうかの記録を確認するためのものです。ですから、監査官の記録にOKと記された途端に必要のないものとなってしまいます。
エージェント依頼の翻訳で「だいたい意味が分かればいい程度の翻訳でいいから。」といわれたことがある…と言った翻訳者を多く知っています。翻訳者のレベルに関係なくそういう依頼がされるように見受けられます。しかも、Twitterなどで多くの翻訳者のつぶやきを読んでいると、そうのような案件は少なくないようです。
今は”だいたい意味が分かる翻訳”依頼が、エージェントを通して翻訳者に流れてきているようですが、依頼する方もそんな翻訳に高いお金を払いたくないわけですから、レートは当然低く設定されます。機械ではなく翻訳者が訳しているのにもかかわらず…です。
こうして考えれば、翻訳者・通訳者が生き残っていける世界は自ずと見えてこないでしょうか。つまり「機械翻訳にできない仕事」をすることです。処理量では勝てないため、品質よりスピードを重視する翻訳案件は、かなり近い将来すべて機械翻訳に流れていくと想定するのが自然でしょう。(今回紹介したMicrosoft(c)Wordの翻訳機能では、インターネット経由で転送される際に暗号化されないので、一般企業で使用する際にはセキュリティーが問題になります。)
その中で最近よく聞かれる言葉が「ポストエディット」ですが、私はポストエディットは翻訳とは全くちがうプロセスだと思っています。その大元にある考え方が「品質よりスピード」であり「機械翻訳」であるわけですから、ポストエディットを行うポストエディターはもはや翻訳者とは呼べないでしょう。
最近発売されたiPhone4SのSiriの機能も、処理プロセスの中でこの機械翻訳を用いています。身近なこうしたガジェットからも、機械翻訳の進化のめざましい事は手に取るように分かりますし、翻訳者・通訳者にとっての脅威のようにささやく声もあるようです。しかし、「機械翻訳にできない仕事」をすればいいということが分かっているのですから、翻訳者・通訳者の将来は暗い…と悲観する必要はないように思われますがいかがでしょう?
ただし、今度は「専門知識と技能を備えた翻訳者によってその真価を発揮できる。(Wikipedia より)」翻訳ソフトや翻訳支援ツールを、どれだけ”賢く”使いこなせるかが”ある程度”ポイントになってくるのかも知れません。
それでも私は翻訳支援ツールの類はあまり使いたくありません。それをやってしまうと、通訳現場で通訳ソフト片手に抜け落ちが有るところだけ自分で通訳する…そんな未来が想像されて、何だかとてもイヤな気持ちなのです(苦笑)
よく翻訳支援ツールを機械翻訳と勘違いする人がいますが、翻訳支援ツールはあくまでも翻訳を「支援するツール」であって、翻訳作業そのものは行いません。大きな特徴は、登録済みあるいは既出の単語やセンテンスをメモリーとして管理し、新たに翻訳する文章の中から、完全/一部マッチする登録単語/センテンスを見つけて訳出の候補として表示してくれることです。
翻訳者の方がこれを読まれている場合「今更、何を言ってるの?」という感じの事実ですが、今回は「機械翻訳」について書いてみようと思っているため、まずはその定義を明らかにして次に進めようと思った次第です。
機械翻訳/翻訳ソフトの精度は年々劇的な進化を遂げており「将来は翻訳者も通訳者も要らなくなるのでは?」という問いは、過去に何度なされたか分かりません。その度にプロの翻訳者・通訳者の多くは「翻訳者・通訳者の仕事はなくならない。」と言っています。
が、ここでトリッキーなのは「翻訳者・通訳者の仕事は減らない。」とは誰でも言っていない点です。
今まで機械翻訳には全く興味が無かったので試したことがなかったのですが、先日はじめてMicrosoft(c)Wordの翻訳機能を使ってみました。この機能、実はもう随分前からWordには備わっているみたいなので、今更はじめて使ってみた…というのも、ちょっとお恥ずかしくはあるのですが。
”翻訳機能”を起動することで当該文書をインターネットを経由してHTML形式でMicrosoft(c)Translatorサービスに送信します。するとInternetExplorerが起動して文書の翻訳結果がブラウザ内に表示されます。
Wikipedia英語版のの"Machine Translation"を日本語に訳してみました。 左下ボックスは、カーソルを合わせで表示された原文です。 |
品質的にはとても”翻訳アウトプット”としては使えません。しかし、該当箇所に何が書いてあるのか?という疑問には、十分答えるレベルになっているのがすごいところです。内容に詳しい専門家が見ることで理解度はさらに上がるでしょう。おまけに、理解不可能な文章についても、カーソルを合わせればその部分の原文を確認することができる仕様になっています。
これは言うまでもなくWordに提供されている簡易機能ですから、いわゆる有償の”機械翻訳/翻訳ソフト”の使い勝手や品質は、今回よりも数段高いものを期待しても良さそうです。
これまで私が経験した機械翻訳は、Google翻訳、Excite翻訳などの簡易的なものだけでした。ですから、大量の文書を一度にこれだけ”翻訳”(厳密な意味では翻訳していないのですが…)し、しかも品質が完全でないことを考慮した上で原文表示の機能を持っているこのシステムは、私にはとても画期的に映りました。
翻訳者が翻訳する場合、どんなに「意味が分かればいいので適当にやって下さい。」と言われても、プロ翻訳者であれば「適当な仕事」をするわけには行きません。使う側もひどい翻訳が出てくれば「次からこの翻訳者はやめておこうか…」となってしまう可能性も出てきます。しかし、最初から「機械翻訳」と分かって使えば、一度に大量の文書を処理できるメリットは捨てがたいでしょう。
こうしたメリットを発揮できる場は、実は社内翻訳には多く潜んでいる気がします。私がよく呼んで頂くクライアントのマネジメント職にある方は、最近赴任されたばかりで、社内の過去の会議議事録や資料をなるべく全部読み込んでから関連会議に臨みたいと考えておられます。つまり、すべて「過去」の資料でありながら「彼の理解」の為だけに大量に人的翻訳リソースをかけています。
以前勤めていた自動車メーカーでも、発生した不具合を探るために過去の試験データや解析結果を大量に翻訳する作業が必要になることもありました。しかし、それを必要とするのはごく一部のエンジニアであり、一度記録を確認してしまえばそれをベースに次は彼らの試行錯誤がはじまり、翻訳済みの書類はあっという間に必要なくなります。
監査などにおいては、監査先の社内書類に大量に目を通す必要が出てきます。そのため、監査官が外国人の場合多くの翻訳リソースをかける必要がでてくる場合があります。しかし、それら翻訳アウトプットの多くは、法規要件に従って適切に社内方針や手順が定められ、文書化され、実際に手順が実行されているかどうかの記録を確認するためのものです。ですから、監査官の記録にOKと記された途端に必要のないものとなってしまいます。
エージェント依頼の翻訳で「だいたい意味が分かればいい程度の翻訳でいいから。」といわれたことがある…と言った翻訳者を多く知っています。翻訳者のレベルに関係なくそういう依頼がされるように見受けられます。しかも、Twitterなどで多くの翻訳者のつぶやきを読んでいると、そうのような案件は少なくないようです。
今は”だいたい意味が分かる翻訳”依頼が、エージェントを通して翻訳者に流れてきているようですが、依頼する方もそんな翻訳に高いお金を払いたくないわけですから、レートは当然低く設定されます。機械ではなく翻訳者が訳しているのにもかかわらず…です。
こうして考えれば、翻訳者・通訳者が生き残っていける世界は自ずと見えてこないでしょうか。つまり「機械翻訳にできない仕事」をすることです。処理量では勝てないため、品質よりスピードを重視する翻訳案件は、かなり近い将来すべて機械翻訳に流れていくと想定するのが自然でしょう。(今回紹介したMicrosoft(c)Wordの翻訳機能では、インターネット経由で転送される際に暗号化されないので、一般企業で使用する際にはセキュリティーが問題になります。)
その中で最近よく聞かれる言葉が「ポストエディット」ですが、私はポストエディットは翻訳とは全くちがうプロセスだと思っています。その大元にある考え方が「品質よりスピード」であり「機械翻訳」であるわけですから、ポストエディットを行うポストエディターはもはや翻訳者とは呼べないでしょう。
最近発売されたiPhone4SのSiriの機能も、処理プロセスの中でこの機械翻訳を用いています。身近なこうしたガジェットからも、機械翻訳の進化のめざましい事は手に取るように分かりますし、翻訳者・通訳者にとっての脅威のようにささやく声もあるようです。しかし、「機械翻訳にできない仕事」をすればいいということが分かっているのですから、翻訳者・通訳者の将来は暗い…と悲観する必要はないように思われますがいかがでしょう?
ただし、今度は「専門知識と技能を備えた翻訳者によってその真価を発揮できる。(Wikipedia より)」翻訳ソフトや翻訳支援ツールを、どれだけ”賢く”使いこなせるかが”ある程度”ポイントになってくるのかも知れません。
それでも私は翻訳支援ツールの類はあまり使いたくありません。それをやってしまうと、通訳現場で通訳ソフト片手に抜け落ちが有るところだけ自分で通訳する…そんな未来が想像されて、何だかとてもイヤな気持ちなのです(苦笑)