2010年6月27日

単なる技術職人でいいのか?

先日は、製造業のお客様に現場対応力について書きましたが、今日は通訳に求められる現場対応力について書いてみようと思います。

実は「あるべき通訳の姿」というのは一つでないと私は思っています。もちろん、一定の技術力を備えた上で、お客様の意図(メッセージ)を汲む意味での正確な通訳が出来る事は大前提です。
しかし、それに加えて通訳にどうふるまって欲しいとお客様が思っているのか?を把握し対応することも重要なポイントです。お客様が通訳に求める事は、お客様や、案件ごとに随分違っている場合が多いのです。


幾つか例を挙げてみましょう。
一つ目は一番一般的な例です。以前ご担当させていただいたホテルチェーン様での三日間の社内教育の同時通訳。高級ホテルチェーンのホテル会議室に同通ブースを構えていただき、本格的な同時通訳でした。ご依頼が直前であったために、資料提供も会議開催二日前。事前準備されていたパワーポイントで800枚!
これだけきちんと資料がそろっている会議で、予習もしない通訳は問題外です。不明な点はすべて担当者に事前にメールをさせて頂き内容確認を取るよう心がけました。
現場ではもちろん、会議の場にふさわしい行動、言葉遣い、服装が求められます。

二つ目はお客様との出張。いわゆるアテンドと呼ばれるものです。
特に海外出張ともなると期間も長くなりがちです。一つ目の例を満たすことも重要ですが、出張先が英語圏であれば、やはりお客様の動向をサポートする姿勢も必要でしょう。会議の場だけが通訳の仕事ではないという事です。「連れて行ってもらう通訳」では、お客様から信頼を得るのは難しいでしょう。
また、通訳する会議以外の事前会議などにも、参加の許可が得られるのであれば積極的に参加させて頂くべきでしょう。通訳に入る会議でのヒントが盛りだくさんですし、出張に入った後に不明点がさらに出てきても、事前会議に参加するだけで自己解決できる場合も少なくありません。
また、出張中の先の予定を把握できるメリットもあります。
自分から積極的にお客様情報をつかむ、あるいはお客様の一員になれるチャンスをうかがう事が求められます。

三つ目は、中長期に渡り少人数の英語スピーカーを日本でサポートするような通訳です。
これは先日の長期出張で強く感じた事なのですが、母語の通じない出張者が日本で過ごす事は、1週間以上に及んでくると言葉が通じないもどかしさにストレスを溜めてしまうようです。そうした英語スピーカーのストレスを和らげて差し上げる事も、通訳の現場力として時には必要な力でしょう。
まずは話を聞いて、相槌を打つこと。加えて、こちらも日頃から情報収集して、日本あるいは世界的なトピックについて話が出来るようにおくことも重要です。もちろん、出張者のムードに合わせてふるまって差し上げることが大切です。
先日の出張で来ていたアメリカ人エンジニアは、技術力も有りながら大変話の面白い賢い方でした。待ち時間が長い日もあり、アメリカの原油流出事故の話から、人気アニメSouth ParkやドラマHeroesの話、くだらないダジャレまで、何でも来い!の話題豊富な方でした。私も随分楽しませて頂きましたが、そういう話に付合う事で、リラックスできる雰囲気づくりのお手伝いが出来たのでは…と思っています。

先日、非常に興味深い話をtwitterで聞きました。有名な通訳養成機関をご卒業された実力にも折り紙付の通訳の方が、直取引のリピートのお客様から「資料を請求して頂くのもよいが、本番の会議でしっかりやってもらう事がメインだ。」というような趣旨のお叱りを受けたそうです。
これを最初に聞いた時には「資料を求めるのは通訳として当然だし、メインの本番会議の成功への準備は、依頼された時点で始まるもの。お客様に理解が無いのかな…」とも思ったのですが「リピートのお客様」というのを見て、何か違和感を覚えたのです。
お聞きしたところ、お客様はこの通訳の実力を評価しているのだけれど、普段から資料請求の要求が強すぎると感じてらっしゃったようだ…という事でした。
どういう要請の仕方をしたのか?も気になる事ですが、いい通訳をする事だけにとらわれて、お客様が日頃感じている事にアンテナが伸びていなかった…という事のようでした。

「通訳はサービス業」を否定する通訳者もいると聞きます。あくまでも「通訳技術の職人である」と。国際会議などのブース通訳などはこうした技術職人である事の優先順位は上がります。ですが、それを超えたところで「スピーカーの気持ちになって!」を原不二子先生も強調されています。それはやはり、スピーカーが通訳に求めている事は何か?を追求した結果でしょう。

このように通訳現場は様々であり、それぞれお客様が通訳に求めるサービスの質も違っています。お客様のニーズを会話やその場の状況から引き出して把握し、即座にそれに即した対応が出来る現場対応力。通常のサービス業やビジネスの中で求められる当たり前の事が、通訳にも重要なのです。

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例年、3月の決算締め月に向けて皆さん予算を使い切ろうとなさるのか、2月中旬から通訳業界は多忙を極めます。そんな中、 なんとかかんとか確定申告を終わらせて、週末にほっと一息ついているところです。 このブログのオーナーである私は、今でこそ東京住まいですが、出身の広島には頻繁に帰省して...