佐藤秀峰 漫画貧乏 Kindle版 ¥ 0 |
デジタルの普及に伴い長い不況にあえぐ出版業界の影響を、マンガ家のみならず執筆を生業とする方はもろに受けているということが分かりました。その中でもマンガは、仕上げるために何人ものスタッフの手がかかり、題材の取材費などを含めると、「売れっ子マンガ家」と言われる人でも、単行本の売上が一定数なければ基本赤字運営なのだそうです。
佐藤さんのサイト: マンガ on Web
http://mangaonweb.com/creatorOnlineComicTop.do?cn=1
この本は、そういう出版業界とマンガ家の関係とは別に、独自で作品を発表するプラットフォームをデジタル・ネット上に構築するまでの佐藤氏の実話です。自分だけでなく多くのマンガ家が自分の作品に誇りを保てる対価を得る仕組みを作る中で、様々な困難や時には同業者からの批判に直面します。それを自分なりに解釈してそれでも前に進んでいく様子が語られています。
フリーランスという立場は翻訳者・通訳者にも共通しており、出版社を通訳・翻訳エージェントとして読んでみることができるように思います。さすがにマンガ家と出版社の関係ほどの酷さが「常識」とはなっていません。しかし、中には最低賃金を割るような翻訳レートのオファーも出てきているとか…?
マンガの中にも出てくる、編集者の「誰がお前のマンガを売ってやってると思ってるんだ。」というセリフと、それを言われると萎縮してしまうマンガ家の感じ…というのは何とも象徴的だと感じました。しかし、佐藤氏は「出版社も原資であるマンガを買い、それを売ることで利益を上げている。そう考えれば出版社はけしてマンガ家のために売っている訳ではない」と気付きます。お互いがお互いのビジネスを尊重し、利益を上げるために納得行く形で手をとれる関係が必要ということでしょう。
自分の仕事が好きで本当にそれを続けたいと思っているのに、それでは生活が立ち行かない…。私が購読しているメーリングリストにも最近までこんな話題が出ていました。でも、現状に不満を述べ自分の主張だけを叫んで何も行動を起こさなければ、変化はおとずれません。佐藤氏はものすごい精神的経済的な重圧の中で、諦めずに前へ前へ進んでいきます。
その中で、あまり多くは登場しないのですが、彼の奥様が優しくそして力強く彼を支えていることを随所で感じました。自分が正しいと思う道でも、必ずしも周囲の全てが支援してくれるとは限りません。その時に応援してくれる人がいるかいないかは、その人がどういう生き方をしてきた人なのか?他者を尊重できる人なのか?何より、自分の信念にどのくらい本気であり正直な人なのか?を知っている人達でしょう。
少し前に「速く行きたいなら一人でも行け、遠くに行きたいなら仲間と行け。」というアフリカだったかの言葉を聞いて、深いな…と思いました。
自分が変えたい現状について、他者による変化を望むのはおよそ不可能です。自分にしか変えられません。であれば、アイデアを沢山持っていることは変化に向けた行動をする上で大きな強みとなるでしょう。でも、それを支える信念や仲間も同じくらい大切だ、ということもこの「漫画貧乏」は教えてくれている気がします。