2013年9月28日

20. 通訳学校では教えてくれないコト -フリーランス前夜(前編)-

派遣期間もあと二日となった深夜二時、通い慣れた管理職用の会議室の同時通訳ブースに私は座っていた。世界の拠点を繋いで午前六時までの予定で開かれた、この会社で最後の管理職会議だった。長引く円高不況に苦しむ自動車業界へリーマン・ショックが追い打ちをかけ、業界再編が目まぐるしく進む中、今後のグローバル戦略を多角的に探っていこうとするトップ会談だった。

各地域の現状、これまでの傾向、今後予想される展開が次々と報告されていく。社内で関わった多くの部門の方から仕入れ親しんだ情報から、機密情報まで…慎重な訳出が求められる場面が続いた。しかし、業界の最先端を行くトピックを通訳していることに、私は静かに興奮していた。

地元企業で四年半に渡り通訳職を得られた事は、私にとって代えがたい経験だった。思えば入社直後は、同時通訳ブースに入るだけで緊張で声が上ずり、惨憺たるパフォーマンスだった。辛抱して育つのを待ってくれた上司、励ましてくれた先輩。そして未熟な通訳にも「助かりました。ありがとう。」と言葉をかけてくれた社員の方々。だからこそ、自分の出来に満足が行かない…と素直に反省することができた。「次は少しでも上手く…」と、早朝や深夜の会議も進んで引き受けた。