2013年1月28日

逐次通訳のメモ取り その3

日英でも、英日でもメモ取りはあくまでも記憶の補助であると言うことは、これまでに書いた通りです。そして前回の最後でも強調したとおり、メモ取りの要は…
メモは通訳補助のために取るもの。通訳が困難になるようなメモ取りはしない。
メモが多すぎると…
 メモを理解するのに時間がかかる。
 書いたメモを「読んで」しまい、スピーカーが伝えるような臨場感が失われる
 ついメモの方ばかり見がちになるが、聴衆を見て話すべき
 訳出時に何かを解読している印象を聴衆にあたえるのは、本末転倒。
前回お見せした私のメモは、かなり多くの情報量を抑えています。ところが、スピーカーが一回に話す分量が短くなるとき、それ以上にメモの量は激減することがあります。これは、必ずしもメモの質が損なわれるということでは無くて、メモに頼らなくてもリテンション(記憶に止めること)ができる長さだというのが大きな理由です。

逐次通訳時にどのくらいの間隔、タイミングで通訳を挟むか?については、事前にスピーカーと確認するしかありません。一番いいのは、本番さながらにしゃべってもらうことです。そこで、スピーカーの調子(長くしゃべる人か、短めにしゃべる人か)を見てメモ取り戦略を考えるのも一手でしょう。いずれにしても、事前打ち合せは大変重要です。

まとめると、ロジカルに展開されたスピーチというのは大変記憶に残りやすいです。もちろん、数字や、固有名詞は間違いなく伝える必要があるためメモに残すのが理想的です。ですが、目的はあくまでも、スピーチにそった訳出をポイントを抑えながらできる事ですから、極端な話、全部を過不足無くリテンションすることで処理(訳出)できるならば、わざわざメモを取る必要はありません。

実際、少ないメモの時の方が、訳出が明快で、メモが多くなりがちになるのは往々にして「聞こえたモノを全部記録しなくちゃ(汗)」という場合です。先日紹介したAIICの動画でも下記の様に述べています。

Sometimes, too many notes can be a bad thing. When you understand something, you desperately want to write it down.
(中略)
Because the whole point suggests to use your notes to remind you what the message the speaker was trying to put across was and you have to try to convey it in the best way you can in your own language.
「メモ取りのためのメモ」には、何も意味がないということをしっかりと認識しましょう。

2013年1月26日

逐次通訳のメモ取り その2

前回はAIICで紹介されていた一般的なメモ取り手法を紹介しました。今回は日英の私のメモを紹介してみます。ソース言語(スピーカー言語)が前回は英語、今回は日本語なので、その違いによりメモの形式もちょっと違っています。ただし、これはあくまでも「私のメモ」であって、人によっては全く違う取り方をされますので参考にとどめ、自分に一番合ったメモ取りの方法を考えて見て下さい。

私が使っているのは、Family Martであればどの店舗でも販売している無印良品の普通の雑記帳です。

私の場合は、この雑記帳を横に使います。多くの通訳さんは縦にして、ちょうど真ん中に縦線を引いて使われています。私も以前はそういう使い方をしていました。(以前紹介した、やはりAIICの動画でもこの使い方でした。)ですが、今は横にして縦に四分割して使うスタイルに落ち着いています。

このやり方に変えたのはつい最近です。以前の方法だとやたらメモに空白が多く、ページをめくる回数が非常に多いのが苦痛でした。(1ページに残せるメモの量が極端に少ない。)また、その時に気がついたのは、文字のストロークが短くて済めば、メモ取りの速さが増すのではないか…と言うことでした。手が小さいので大きなスペースに大きくメモをとるよりも、小さなスペースに手をあまり動かさずにコンパクトにメモをとる…という感じです。

偶然、男性通訳の方が同じ無印良品の雑記帳に逐次メモをとるのを見せて頂いた事があるのですが、その方は縦に、分割しないままに大きな字でメモをとられていました。おそらく男性の手の大きさと動きを考えると、それが一番しっくり来るんだろうな…と思って、今回自分の横使い縦四分割の方法はかなり理にかなっている…と言う気がしています。もしかしたら将来的にまた変わるかも知れませんが(笑)

ソースが英語の時には左上から右下へ、左から、主語、動詞、詳細が基本でしたが、日本語の並びは全く違うので、これに沿ったやり方は私はしていません。

私は資料読みの時もそうですが、内容がどう展開するかを図式で記録しようとします。そして、下記が私のメモです。笑わないこと(笑)読めないメモに愕然とする人もいるかも知れません。でも、このメモはまだ読める方ですし、スピーチがしっかりしているためまともな方です。


このメモ一枚当たりがカバーしたスピーチの長さですが、だいたい2分45秒前後でした。つまり、このメモはそれと同じくらいの長さで訳出することが求められます。実際には、訳出時に時間計測はしませんが、もとのスピーチがまとまりよい程情報量が多くなるので、ポイントをどれだけ抑えられるかというのが、よりよい訳出への鍵になります。


このメモのスピーチは、スピーカーが事前に原稿を練り、かなりロジカルに話を展開している例です。そのため、後にスピーチを書き起こした日本語原稿を見ても「あー」「そのー」などのいわゆる冗語と言われるものが殆どありません。(実際には、通訳学校の教材用に現場に近い形で原稿を読上げて録音しなおしたものです。その点、留意して下さい。


でも、ココまで書いてなおも重要なのは、前回紹介した要点の1.です。大切なことなので、再掲しておきます

1.メモは通訳補助のために取るもの。通訳が困難になるようなメモ取りはしない。
メモが多すぎると…
 メモを理解するのに時間がかかる。
 書いたメモを「読んで」しまい、スピーカーが伝えるような臨場感が失われる
 ついメモの方ばかり見がちになるが、聴衆を見て話すべき
 訳出時に何かを解読している印象を聴衆にあたえるのは、本末転倒。

2013年1月24日

逐次通訳のメモ取り その1

社内通訳をしていた頃に、会議の後で時々「さっき取っていた通訳メモ見せてもらえるとありがたいのだけど…、議事録書かなきゃいけないんだよね。」と言われる事がありました。多くの方は、通訳のメモだけで完璧に会議内容が再現できると思われているようですが、これは大きな間違いです。

翻訳者の方にも「聞いた内容をどうロジカルにまとめてメモ取っているのかぜひ見せて欲しい。」とよく言われるのですが、ロジカルなメモを取ること」が目的では無いため、いつも「うーん」と苦笑してしまいます。

逐次通訳のメモがいったいどういう目的のものなのかをまとめたAIICのページをご紹介します実演動画と、メモ取りの説明動画の二つがあります。


実演は英語スペイン語通訳ですが、具体的なメモの流れがよく分かります。


メモ取りの仕方は個人によって随分違っていて、一般的に「こうすべき…」というものが有るわけでは有りません。ですが、説明動画では、一般的なメモ取りについての共通の認識をまとめて説明しています。こちらは説明動画です



重要事項だけピックアップしてみました。但し、これはソース言語(スピーカー言語)が英語である場合であると言うことは念頭に置いておくべきでしょう。ですが、特に1.についてはどの言語でも変わりなく当てはまると考えていいと思います。ご参考まで!


1.メモは通訳補助のために取るもの。通訳が困難になるようなメモ取りはしない。

メモが多すぎると…
 メモを理解するのに時間がかかる場合がでてくる。
 書いたメモを「読んで」しまい、スピーカーが伝えるような臨場感が失われる。
 ついメモの方ばかり見がちになるが、聴衆を見て話すべきである。
 訳出時に何かを解読している印象を聴衆にあたえるのは、本末転倒。

2.ページ内のメモは左上から右下への対角線の流れでとる
 左端…主語
 中間…動詞や事が起こっている様子
 右端…詳細
 センテンスが終わると横線で区切る。
 新たなアイデアがはじまる時には二重横線で区切る。

3.シンボルや記号は役に立つけれど、使い過ぎに要注意
 全部を覚えきれないこともあるため


2013年1月20日

英語は英語?-アクセント、方言、etc.

このこのビデオをご覧下さい。これ…全部英語です(笑)



いわゆるグローバリゼーションが進み、"de fact standard"として英語が世界標準語としての地位を確立したかに見える今、じゃぁ英語をマスターすれば世界征服も夢じゃない!…とそんなわけはないのですが、英語が世界標準の土俵で自分が不利益を被らないためには、戦うべき武器として英語勉強することは意味のあることだと言えるでしょう。

でも、そう考えてみれば、英語を勉強する国民は日本人だけではないのは容易に想像がつきます。そうすると様々な母国語を持つ方のアクセント、方言のある英語に取組まなければならない事態も発生する…かもしれません

でも、チョット待って下さい。それでは英語ネイティブならOKなのか…?


英語ネイティブと一口に言っても、アメリカ、カナダ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、インド、フィリピン、香港…と第一公用語に英語を定めている国は沢山あります。そして、その国独特の訛り(アクセント)があることは皆さんご承知でしょう。さらに、アメリカだけをとっても東部訛り、南部訛り…。

訛りのある英語、英語の方言は有るわけで、通訳だって苦労するのですよ。ちなみにJapanese-Englishは10:40当たりからです。お楽しみ下さい

2013年1月12日

ある大企業の言い訳

2011年にWorld Mobile Congressに仕事で行った時、会場は携帯OSであるAndroidのマスコット「Droid」君であふれていました。

それまでのMicrosoft社が開発していた携帯OSのWindowsPhoneはひどくUIについての評判が悪かったそうですが、同行したお客さまによればDroid君があふれる中この度のWindowsPhoneには確かな進化がある!」と仰っていたのを思い出します。

早いものであれから二年が経ちますが、めまぐるしく変化を続けるMobile業界でここ数年苦境に立たされていたかつての大企業(今でも大企業ですね…笑)が、自らのトップの発言についてちょっと残念な言い訳をして話題になっています。

その大企業とはNokiaです。かつては国家を代表し実質的に支えていた企業は、ここ数年、Apple社やSamsung社の台頭により、収益を大きく減らし、従業員の大幅解雇を行ってもなおかつ追いつかないレベルの赤字を出していました。しかし、大企業の底力を見せMS WindowsPhoneにこだわって開発し続けた携帯デバイスのおかげで、業績は大きく回復基調にあります。

そのノキアが「Andoridデバイスを開発する可能性」についてうっかり口にしたことから、市場や業界関係者から混乱の声が上がったのですが…。その元になった声明がコチラ。

In the current ecosystem wars we are using Windows Phone as our weapon. But we are always thinking about what's coming next, what will be the role of HTML 5, Android... HTML5 could make the platform itself-being Android, Windows Phone or any other-irrelevant in the future, but it's still too soon to tell. Today we are committed and satisfied with Microsoft, but anything is possible.
Androidデバイスの台頭で押され気味で、かつては会社再興の希望をAndroidデバイス開発へ託すべきとの声が有ったにもかかわらず、WindowsPhoneにこだわってやっとここに来て勢いを盛り返してきたのに「いまさらAndroid!?」という反応が起きたわけです。しばらくサイトは炎上。事態収拾のためにノキアがった策は…

「翻訳が間違っていた」として「”正しい”翻訳」に差し替えたというもの。つまり「ノキアはそんなつもりありませんでした。悪いのは翻訳者ですという態度。

ちなみに差し替え後の「”正しい”翻訳」はこれ…。

So, the way I think about it is, in the current war on ecosystems, we are fighting with Windows Phone. That's what we're doing. Now, what we're always doing is asking, how does that evolve? What's next? What role does HTML5 play? What role does Android or other things play in the future? We're l the future, but it terms of what we're bringing to market, and what we're immediately focused on, we're focused on Windows Phone.
はてさて、フィンランド語は分りませんが誤訳だったのでしょうかね?それにしても、これで何とか炎上は一応沈静化したということです。誤訳であってもなくても 辛いのは翻訳者」に変わりは無さそうです…。

出典はこちら
 
Nokia to build Android-powered phones? Blame the translator!
NDTV Correspondent
, January 08, 2013

2013年1月8日

通訳を上手くつかう-その2

舞台の通訳は確実に逐次通訳になるため、舞台上でしゃべる通訳にも視線が集中大変緊張するものです。しかも、その場の流れを損なうことは、イベントを台無しにしてしまう可能性もあるため、表に出る逐次通訳が担う役割は、おそらくスピーカー本人と司会者と同じくらいにその瞬間には大きくなります。

そんな緊張の面持ちながら颯爽とタキシード姿で現れた通訳(たぶん…笑)を使わず、あわや大惨事(?)になりかけたシーンに出くわしました。ミスユニバースを決める舞台での、ミスベネズエラです。おそらくこのタキシード君は、大舞台に相応しい優秀な方だったに違いありません。それなのに…



自分で伝えたいという熱意が、交渉やプレゼンへの反響の鍵になることはあります。しかし、それはある程度のレベルがあってのこと。なぜ、彼女はタキシード君に任せなかったのでしょうか?

一方、この動画のスペイン語同時通訳の音声が流暢なのが気になるところです。クリエイティビティーも通訳には求められる…というところでしょうか(汗)

「パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記」のイタリア語通訳、田丸公美子さんが、あるスピーチ通訳を「クリエイティビティー」を発揮してのりきり、スピーチにイタリア人から、あんな訛りの強いイタリア語わかるってすごいな。俺は全く分らなかった…と話しかけられて、どっひゃ~!な経験をされた…という話を読んだことがあります。

つくづくこういうスピーカーには当りたくないと思います。

2013年1月7日

通訳を上手くつかう-その1

昨今の英語教育熱の高まりをうけグローバル社会に育ってきた人たちの中には帰国子女や、英語に堪能な方が数多くいらっしゃいます。もちろん、そうでない方もいるから通訳が必要になるわけですが、中にはかなり英語の流暢な方でも通訳をつかう方がいます。

先日こういうツイーとを見かけました。

 

つまり流暢な方でも通訳をつかうというのは、そういうことなのです。確か、鳥飼玖美子先生の「国際共通語としての英語」にも同様の事が書かれていたと記憶しています。

通訳は話された言葉を訳していくわけですが、先読みの姿勢はもちろん欠かせないものの、戦略的にどう論旨展開をはかっていくか?までをコントロールするかしないか…というのは非常に微妙な線です。

スピーカーが英語文化での交渉戦略を十分に意識している場合であれば、安心してスピーカーの日本語にのせて通訳することができます。しかし海外ビジネスや英語スピーカーとの交渉に慣れない日本人の場合、日本語に頼りきった通訳をすることは、一定のリスクが伴うと感じます。

英語が話せなくても、英語の文化を知るということはある程度できますから、そうしたことをわきまえた上で英語でおこなわれる交渉事に向かうことも大切でしょう。
 

また、そういう「慣れない」お客さまで有ることがわかった時点で、それとなく通訳からのあくまでも「ご提案」という形でお客さまに働きかけるということは、けして無駄にはならないと感じます。

もちろん、それを採用するか否か…はお客さまの判断ですが。

2013年1月4日

2月JAT通訳グループミーティングご案内

昨年9月1日に、JAT(日本翻訳者協会)内に通訳者のグループを私が発起人となって立ち上げました。その時にも東京で第一回ミーティングを行いましたが、その第二回を下記の要領で行うことになりました。(私もまたシャベります笑!

参加にはJATサイトから申し込みが必要です。遠方の方はご参加が難しいと思われますが、JAT会員であればどなたでも録画コンテンツを
後日ウェブからご覧いただけるようになっています。本ミーティングももちろん録画予定です。
 

JATは日本翻訳者協会というその名前から「翻訳者だけの団体」と勘違いされがちです。しかし、実際のところは翻訳者、通訳者のが登録する団体で、通訳者のネットワークも存在しています通訳グループ創設と同時にメーリングリストも設置しています。

この機会に、通訳者の皆さんのJATへの会員登録をお勧めします。
第二回通訳グループミーティングについても、沢山の皆さんのご参加をお待ちしています。

日時: 2012年2月23日 (土)14:00-17:00

場所:渋谷道玄坂 FORUM 8 803会議室

交流会: 17:15-
場所: The Aldgate British Pub

参加費:
JAT会員 無料 / 非会員  1,000円 (交流会参加費は別 途)


講演予定(順不同):
工藤浩美(株式会社テンナイン・コミュニケーション 社長)
「エージェントによる通訳者の品質管理」

Steve Venti(フリーランス通訳/翻訳者)
「通訳準備の仕方」


藤井信孝(IRIS株式会社 登録通訳)

「IR通訳とは?」

松尾譲治(フリーランス通訳/翻訳者)

「私の逐次通訳メモ取り法」

宮原美佳子(フリーランス通訳/翻訳者)
「通訳者お役立ちツール・ガジェット、エトセトラ」

2013年1月1日

2013年 今年もよろしくお願いします。


あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

おかげさまで2012年は大変忙しい年でした。6月のIJET広島の開催を運営委員として進めたことで、多方面からの協力を得て、翻訳者通訳者に限らず多くの方とつながることができました。

昨年のIJET広島で得たつながりを大切にしつつ、今年は通訳翻訳の両方を通じてより地元のお客様に立てる形で活動すること、を考えていきたいと思います。同時に、いつも世界を俯瞰できる目は持ちたいと思うので、引き続き海外へも積極的に出ていく積りです。

その一環として、今まで英語でのビジネス情報発信についてLinkedinへ誘導していましたが、新たに英語サイトを立ち上げました。海外から広島へ来られるお客様のお役にもたてることを期待しています。

どちらかというと振り返りすぎる傾向のある私なので、2012年の反省はそこそこにして、2013年は静かに…でも常に攻めの姿勢で臨みます。このブログも更新頻度をもう少し上げて、より多くの有益な情報を提供していきます!

本年もどうぞよろしくお願いします。

宮原 美佳子
ピースリンク通訳事務所 代表