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2010年8月17日

ディナー対応での距離感

最近、立て続けにお客様の仕事に同行して海外出張していました。それぞれ別のお客様について北米に8日間、そして上海に4日間です。(含移動日です。)その中で、様々な場面におけるお客様との距離感を意識することが大変重要だ、と改めて感じました。

当たり前ですが海外出張であれば宿泊が伴うため、海外からのゲストをもてなそうと受け入れ先企業がディナーをアレンジして下さり、ディナー対応通訳の依頼を受けます。今回の二回の海外出張も、それぞれディナー通訳対応の申し入れが事前にありました。

「美味しいもの食べられていいわね」と言われますが、全くその通り…役得だわ!と思うこともよくあります。でも、これも仕事。一筋縄では行くものでは無いのです。ディナーの場での当事者の距離感は、会議におけるそれとは随分違うからです。


例えば私のクライアントをA社、A社が訪問する現地企業をB社としましょう。会議の場を考えてみると、当事者はA社とB社であり、通訳者である私はA社の方の理解と主張を最大限にするような通訳をします。よく通訳者は黒子に徹する…と言われますが、B社の目線から見れば、それに近いと言えるでしょう。

ところが、ディナー対応の場合ではちょっと状況が変わってきます。なぜならA社とB社だけでなく、通訳者もちゃんとご飯を頂くからです。ディナー対応では通訳者にも食事が提供されます。(それができない場合には、ちゃんと通訳者にも別途食事がとれる場が設けられます。)つまり、当事者が増えるのです。

会議の場と同様、「A社の方の理解と主張を最大限にする」という事はもちろん基本なのですが、これに加えて「A社の代表としてB社と上手く話を展開させていく。」という事が加わっていきます。ふるまって頂いた料理やお酒、もてなしに対して、A社の人間として「おいしい!楽しい!ありがとう!」という雰囲気作りをする事も実は大切な通訳サービスです。


たとえば、A社のお客様は発言とも取れないような小さな声で隣で「この食材は面白いね…日本で見たことがない。」と呟かれたら、それは咄嗟に通訳します。そこから話題が広がるからです。

また、A社の方は”日本語がしゃべれる隣席の人間”として通訳者に話しかけ始めます。内容はかなり内輪の話…例えば当日の業務に対して「今日このB社のX氏は実はうちのビジネスが欲しくて仕方ないから、さっきのあの発言なんだよ…」など。
これはとても通訳することは出来ません。ですが、B社の面々は正面で何やらA社が通訳者に話しかけているのを目撃して、もしかすると通訳者が何かをしゃべりだすのを待っているかもしれません。

そんな時は「このワインはおいしいですね…先ほど注文していただいたものですが、地元のものでしたでしょうか?」などと、自分の興味でとりあえず質問します。B社が果たしてそれを会話の内容を私が通訳したととるかどうかは別ですが、それでもとりあえずB社を不安にさせずにすむわけです。


逆のケースだと”英語が喋れる日本人”として通訳者にB社が話しかけ始めます。よくあるのは「英語どこで勉強したの?」という質問を含め私個人に関する質問です。英語習得に関すること程度であれば、受け答えした後にA社の方に「私の英語の経歴についてのご質問でした。」と簡単にご説明はします。個人的な質問の場合でも、私の回答にとどめずに、必ず別の誰かに同じような質問を向ける事で会話に巻き込む人の人数を増やします。初対面の場合が多いですから、トピックはせいぜい家族構成くらいで、失礼な質問にあたることはまずありませんから、個人的な質問といってもその点は大丈夫です。


でも、時々やっぱりあるのです、内輪の話…。

「ところで今日の昼間の話…A社の反応はどうだったと思う?」

まさかこの質問をB社の見ている前でA社に聞かせる訳には行きません。しかしながら、この問いかけを無視することも出来ません。非常に難しい状況ですが、こうした事態も切り抜けて行くことも任務のうち。私はこの質問には実は下記のような決まった回答を用意しています。

「お昼に見せて頂いた御社の提案/技術etc.の内容については、大変興味深く聞いておられた様子でしたね。」
-目の前でA社の反応を見ていたはずだから、興味深いかどうかはB社にも見ててわかるわけで、あまり意味のない発言でお茶を濁す。

「私は専門外ですが、何か面白いことが両社が共同して出来るといいですね。」
-昼間の会議の進捗具合がどうであれ、とりあえずB社にとっては希望の持てる第三者の(実はどうでもいい)意見。

ですが、ディナーの席を立った後にA社に対して、先ほどB社からA社の考えについて通訳者に尋ねられた質問があった事と、その受け答えについては説明しておきます。



私がこうしたやり取りの中で特に意識するのは(通訳者も当事者だけれど)「他の当事者が交わす会話を最大限にし、ディナーの流れを乱さない。出来れば盛り上げる。」です。これを実際にやっていくには、会議の場とは違ったA社、B社との距離感に常に配慮しておかなければなりません。上記のように様々な例を挙げたので、これがそんなに簡単ではないという事をお分かりいただけるのではないかと思います。また、敢えて「できれば盛り上げる。」を付け加えましたが、両方の言語を話す通訳者だからこそ、両当事者を巻き込んだ形でその場を盛り上げていく事も出来るのです。

「かたや目立つことを控えてコミュニケーションの橋渡しをしながら、その場の当事者すべてが楽しめるように両言語の使い手として貢献する。」

なかなかチャレンジングです。
でも、私は好きだし…得意です!


<こぼれ話>
食べながらの通訳ってどうなの?という疑問もあるでしょうが、これは他の通訳者も沢山書いているように「慣れ」るもので、聞きながら効率よく口へ放り込む事は出来るようになるものです。それでも、ちゃんと食べる以外で口を動かしているときには通訳していますよ。